ベイビー・ドライバー (2017):映画短評
ベイビー・ドライバー (2017)ライター8人の平均評価: 4.4
緻密に計算された迫力のサウンドをドルビー・シネマで!
リアルな高画質と高音質を追求した最先端の上映方式ドルビー・シネマ。その規格を採用した映画館T・ジョイ横浜の杮落しとして、『ベイビー・ドライバー』がリバイバル公開される。交通事故の後遺症である耳鳴りを抑えるため、常に音楽が欠かせない天涯孤独の天才ドライバーが、不本意ながら引きずり込まれた銀行強盗一味の逃走担当として凄まじいカーチェイスを繰り広げる。全編に絶え間なく流れる新旧ヒットソングと、オスカー候補にもなった迫力の音響効果が重要な役割を果たす作品だけに、サウンド・デザインにこだわったドルビー・シネマ上映にはうってつけ。映画館だからこその付加価値を堪能したい。
音楽オタの脳髄に響くロックエンタテインメント
劇中曲とカーアクションの一体化というアイデアに尽きるが、背景にはこの2つの要素に向けられたライト監督のディープな愛情がある。製作国、ジャンル、主演などなどさまざまな点で過去のライト作品とは異なるが、オタク精神は不動だ。
とりわけ主人公の音楽オタぶりが嬉しく、新たに好きな曲ができるとレコードで探したり、カセットテープを録音用に使用したり、アイテム面からニヤリとさせられる。
選曲も文句ナシでチェイス時のジョンスペ、ダムド等にはアドレナリン噴出。一方で、主人公とヒロインの関係発展場面ではSTAXのスウィートソウルにトロケた。頭の中でいつも音楽が鳴っているロケンロー中毒者は必見!
画と音のシンクロがライブ体験的快楽をもたらす革命的アクション
のっけから引き込まれる。見慣れた強盗→逃走でこんなにも興奮させるとは!アニメでしか成し得なかったような画と音のシンクロ。音楽に合わせて編集したのではない。撮影時に曲を流し、俳優や車のみならず、走行や銃撃戦にまで振付けを施すことで可能になった、活劇のコペルニクス的転回。身体が躍動する画と本能を揺さぶる音が絶妙に同期し、快楽の絶頂へと駆け上がる。タランティーノ的でありながらも、オマージュを捧げる名作群を、まるでiPodでシャッフル再生するかのように縦横無尽に取り込み、オタク臭を感じさせない屈託のなさ。ジャンル映画の定石を逸脱し、エンディングへ向かって意外な方向へと向かうハンドル捌きにも痺れた。
『glee』風味の強盗映画は、ロマンティック♡
逃走車ドライバーの“最後の仕事”というテーマは強盗映画にありがちだけど、主人公ベイビーの心情や状況にマッチする音楽が物語を盛り上げる。ドラマ『glee』同様、既存のヒット曲を使ったジュークボックス・ミュージカルなので「知ってる」な曲もたくさんでノリやすい。楽曲の使用パートやタイミングなどすべてE・ライト監督が脚本に書き込んでいたというから驚いた。観客心理まで考えての映画製作をあざといと思う人もいるかもだが、素直に楽しむが勝ち。主役アンセル君とL・ジェイムズとの相性がよく、ロマンティックな展開にも鼻白まない。しかも若手を取り巻いたオヤジ俳優がみな怪演。特にJ・フォックスのイカレっぷりは感動的だ。
iPod世代の『トゥルー・ロマンス』
『ドライヴ』以上に『ザ・ドライバー』のオマージュたっぷりに、ありえへん状況でのボーイ・ミーツ・ガールに、若干『ビッグ・ヒット』入った敵味方入り乱れてのクライムアクション。そして、各シーンにシンクロする40曲に及ぶサントラと、タランティーノ・チルドレンのエドガー・ライト監督が撮った、まさに“iPod世代の『トゥルー・ロマンス』”。音楽が流れないシーンも、じつにリズミカルで、アンセル・エルゴートの好演や『ラスベガスをぶっつぶせ』を思い起こさせるケヴィン・スペイシーの親分っぷりにも震える。シリアス色が強まる展開から、終盤にかけての息切れは否定できないが、衝撃のアバンタイトルは間違いなくコトイチ!
快感!ポップソングとアクションがシンクロ!
全米大ヒットも納得、エドガー・ライト監督らしさはそのままで、しかもこの監督を知らない観客にも楽しめる。ポップミュージックとアクションがシンクロする楽しさはこの監督のいつもの得意技だが、それが今回は映画全編で持続。主人公がずっとイヤホンでポップソングを聴いているという設定で、その曲が全編で流れ、人の動作もカーアクションも銃撃戦も、すべてポップソングとシンクロするのだ。アクションと音楽が同期してダイレクトに身体感覚を刺激、それだけで気持ちいい。この快感を感じるのに、オタクな知識は不要。選曲も有名曲が多く、セリフで曲名を教えてくれたりもする。そのうえでギャグのセンスはいつもと同じ。それも嬉しい。
いま最も中学生マインドで素直におすすめしたい男子映画!
素敵じゃないか! ジョン・スペンサーの「ベルボトムズ」を皮切りに、背の高いベイビー(A・エルゴート、190cm越え)が耳にiPodのイヤホンをつっこんでドライビング。E・ライト監督の映画音楽はいつも彼の「プレイリスト」だが、それを全面展開し、完璧にアクションと同期させる事で大傑作をモノにした!
お話はガキっぽくも王道だ。ボーイ・ミーツ・ガール。燃費の良い実用車(スバルとか)に、B級な美女と犯罪。海外でカーチェイス版『ラ・ラ・ランド』との評が出たが、古典的な映画の形をカジュアル&趣味的に改造した点においてもD・チャゼルの仕事に通じると思う。ライトにはルースターズ版「テキーラ」を教えてあげたい!
甘い恋物語もある、犯罪アクション版「ラ・ラ・ランド」(?)
主人公ベイビー(アンセル・エルゴート)が、ひとり車の中でiPodを聴いている最初のシーンから、もうすっかり夢中になってしまった。彼の手の動きやワイパーが音楽にぴったり合っていて、痛快なのだ。続くカーチェイスも、緊張感たっぷり。その名のとおりベイビーフェイスでおとなしい彼がこんなすごい運転をやってみせる、そのギャップがまたおもしろい。音楽は、ベイビーの次に重要なこの映画のキャラクター。彼が出会うウエイトレスとの会話で、自分の名前が出てくる歌を挙げるところなど、甘くて微笑ましい。バイオレントな世界の中に、このおとぎ話のようなプラトニックなラブストーリーが、絶妙にはまっている。