清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • ブランカとギター弾き
    名も無き人々の希望と映画の可能性を信じる一篇の清涼な映像詩
    ★★★★

     マニラの路上で暮らす孤独で純情な少女が、盲目のギター弾きとの心の交流を介し、「カネの万能性」をめぐる、ある真実に気づく。テーマはシンプル。ヴェネツィアの全面バックアップによる長谷井宏紀の長編は、名も無き人々の希望と映画の可能性を信じる一篇の清涼な映像詩だ。すでにクラシカルな名画の味わい。歌声も披露するヒロインを含め、出演者にプロの俳優がいないフィクションであることを信じられぬほどドラマティック。湿り気と暗さを一切感じさせず、スラムの苛酷な現実を前に、生命力が漲っている。出会いを大切にし、市井の人々を優しく見つめ、人間的な魅力を引き出そうとする初々しいキャメラアイに、心が洗われる思いがする。

  • スパイダーマン:ホームカミング
    80年代学園ドラマ・テイストと身体性高きトム・ホランドの発見
    ★★★★

     スタッフ&キャストの一新だけではなく、トーンをも刷新した会心のリブート。資本主義社会の犠牲者ヴァルチャーと、そんな世の中の守護者である実業家ヒーローことトニー=アイアンマンという対立軸の狭間で、高校生ピーターが真のヒーローになるビルドゥングスロマン。ベンおじさんの死を捨象し、80年代学園ドラマ風タッチを選択した演出は、マンネリを打破する上で正解だ。アベンジャーズ入りへの憧れという立ち位置や、動画投稿や部活的ヒーロー活動といったエピソードによって、あまちゃんヒーローの瑞々しさが際立った。そして何より、驚異のVFXではなく、トム・ホランドという身体性に照準を定めたことが、本作成功の最大の鍵。

  • 君の膵臓をたべたい
    儚さが同居する浜辺美波の笑みが牽引。セカチュー的回想は夾雑物
    ★★★★★

     ツッコミどころ多き難病純愛ものではある。しかし、死を前にして生の煌めきを表現する16歳のヒロイン、浜辺美波の魅力には抗しがたい。彼女の笑みには儚さが同居し、悲しみや怖れを押し込めて気丈に振る舞う自然な演技が、終始牽引する。受け身に徹した木訥な僕=北村匠海とのコントラストによって、柔らかな光の下、月川翔監督は切なく幻想的な映像詩に仕上げている。ただし、原作にない12年後の僕=小栗旬による回想は、同ジャンルの金字塔“セカチュー”のエピゴーネンに堕した感が強い。内向的な僕が、関係性が希薄な生徒に対し、彼女との大切な想い出を語り聞かせるリアリティなき構造。本作の回想は、感動を薄める夾雑物にすぎない。

  • ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ
    「マクドナルド」に凝縮されたアメリカ資本主義の栄光と悲哀
    ★★★★

     巨大化した企業の“生みの親”は、往々にして1人じゃない。品質を追究した発明家と、ビジョンを抱き一大ビジネスに育て上げた事業家。クリエイターとプロデューサーとも言い換えられる。発明家マクドナルド兄弟と事業家レイ・クロックをめぐる本作には、1950年代に完成したアメリカの本質が凝縮している。金儲けに腐心する者を悪の権化として描くことも可能だが、クロックは情熱的な野心家であり、一方、涙を呑んだ兄弟からの視点も挿入され、ある意味でニュートラル。資本主義社会の栄光と悲哀という現実が、しっかりと提示された秀作だ。クロックが「マクドナルド」名義に固執した理由が明かされる構成上のタイミングが、実に巧い。

  • 十年
    皮肉と憤怒と内省を込めて透視する10年後の香港ディストピア
    ★★★★★

     香港返還から20年。中国の影響力が強まる中、若手監督たちが紡いだ5つの短編の集積は、現在の延長線上に訪れるであろう10年後のディストピアを、皮肉と憤怒と内省を込めて透視する。テロの脅威を口実にした統制の強化、北京語が出来ないゆえ職を失う現実、焼身自殺による抗議活動の深層、文革時代の近衛兵が甦って表現規制を始める恐怖…。『ドラえもん』でさえ糾弾対象になる第5話、書店に貼られた『進撃の巨人』のポスターが暗示する“巨人”に思いを馳せた。「人の言いなりになるな。まず自分で考えよ」というメッセージが木霊する。抗わなかった後悔が招く絶望的な近未来。このメッセージは、海を越えて私たちの現在にも突き刺さる。

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