スパイダーマン:ホームカミング (2017):映画短評
スパイダーマン:ホームカミング (2017)ライター8人の平均評価: 4
かけだしヒーロー・ストーリー、青春篇
監督は『ブレックファスト・クラブ』等のジョン・ヒューズ作品をモチーフにしてアメコミ映画を撮ろうとしたというが、それも納得の青春モノとヒーロー活劇の融合。
実力を示したくてウズウズするあまり、学校生活を軽んじてしまう、そんな若気のフライング、もっといえば青クサさを、ポップな感覚で活写。金も地位もない若者の行き場のない感情の描写は『スパイダーマン2』を連想させ、先人ライミへの敬意を匂わせる。
ユーモアも効いており、トニー・スタークやオデブな友人との、ピーターの絡みは面白い。高層ビルのない田舎ではさすがのスパイディもスイングできず、走るしかない……というのは目からウロコだった。
これぞアメリカだ!
スパイダーマンことピーターの青春譚だが、苦さが際立つ。
アベンジャーズ入りを夢見る彼の正義が空回りし、非常事態を次々と招く。
結果的にピーターが取り繕い、事情を知らぬ人からヒーローと崇められる皮肉。
未熟な者が武器を使うことの重責を知るには、十分過ぎる”お勉強”だ。
挑戦的な試みはキャスティングにも。
同級生がアフリカ系やフィリピン系と、多人種国家を象徴するかのよう。
それが物語のカギとなるのだから、日本ではまず生まれないであろう脚本に感心しきり。
でも、これぞ米国。
白人至上主義者のトップが君臨する今、本作を制作した映画人の心意気に拍手すら送りたくなるのだ。
80年代学園ドラマ・テイストと身体性高きトム・ホランドの発見
スタッフ&キャストの一新だけではなく、トーンをも刷新した会心のリブート。資本主義社会の犠牲者ヴァルチャーと、そんな世の中の守護者である実業家ヒーローことトニー=アイアンマンという対立軸の狭間で、高校生ピーターが真のヒーローになるビルドゥングスロマン。ベンおじさんの死を捨象し、80年代学園ドラマ風タッチを選択した演出は、マンネリを打破する上で正解だ。アベンジャーズ入りへの憧れという立ち位置や、動画投稿や部活的ヒーロー活動といったエピソードによって、あまちゃんヒーローの瑞々しさが際立った。そして何より、驚異のVFXではなく、トム・ホランドという身体性に照準を定めたことが、本作成功の最大の鍵。
ピーター・パーカー=トム・ホランドが愛くるしい!
MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の一員として仕切り直された新生スパイダーマン・シリーズの第1弾。過去作品と決定的に違うのは、その能天気なまでに痛快なノリの良さと学園青春ドラマ的な爽やかさだ。中でも、主人公ピーターのお茶目な童貞男子ぶりが実に愛くるしく、そこは演じるトム・ホランドの魅力に負うところが大きい。
一方で、社会に蔓延する経済格差や不平等への怒りに燃える悪人バルチャーに、単純な善悪では割り切れない人間のダークサイドを投影する。この光と影のバランスが絶妙。さながらバードマンなバルチャー役にマイケル・キートンって、どう考えたって狙ってますよね(笑)。
思わずトム・ホランドを応援したくなる!
冒頭の“『シビル・ウォー』盗撮実況”から、何かが違う! 部活ノリで、ヒーロー活動する今度のピーター・パーカーは、これまでのあざといナード臭や葛藤を醸し出さず、イマドキな学園ドラマとして突っ走る。誕生シーンなど、はしょり具合も気持ちよく、ロバート・ダウニー・Jrとの絡みも愛おしいトム・ホランドの好演は、観客を完全に味方につけるだろう。そのポップでライトなテイストに賛否あるかもしれないが、バルチャーの正体判明後のジョン・ワッツ監督らしい演出には思わずニヤニヤ。まさか「DCユニバース」の影響?と思わせるダークなクライマックスは、手放しでは喜べないが、確実に次回作が期待できる仕上がりである。
"スパイダーマン映画"がラモーンズのノリで生まれ変わった!
冒頭で鳴るのがNYパンクの人気バンド、ラモーンズ。この1曲で、この映画が「NYといえばラモーンズでしょ」という感性に貫かれていることを宣言。その宣言通りに、映画自体がパンクな勢い、スピードと跳躍力で疾走する。速いだけではなく、速度が軽やかさを伴う。若返ったのは主人公だけではない、"スパイダーマン映画"が若返った。
演出も現代に合わせてアップデート。現役高校生のピーターは自撮りが大好きで、観客はアベンジャーズが絡む世界規模の出来事も、彼の自撮り目線で描かれる。それでいて"ご近所のヒーロー"というスパイダーマンの根幹は、きっちり踏まえる。ジョン・ワッツ監督、今後の動きにも要注目だ。
青春映画としての胸きゅん要素がいっぱいでした!
再びのリブートだけど、スパイダーマンである高校生ピーターの戦いよりも多くの比重が高校生活に割かれているのが新しい。キャプテン・アメリカの盾を奪ったと大興奮し、その様子をスマホで録画するピーターの「悪と戦うのは放課後」というバイト感覚ヒーローっぷりも今どきだ。演じるトム・ホランドはティーンらしい不安や戸惑い、初恋に胸を焦がす様子をとてもリアルに演じていて、おおいに共感。コンピュータに強いおデブな親友がいろんな側面で協力する感じも、青春あるある! CGI満載のアクションは派手だし、スタークが作ったAI内蔵スーツの機能もすごい。でもワクワクさせられたのは、青春ドラマとしての胸きゅん要素なんだな。
ユーモアたっぷりの新鮮なアプローチ
リブートと聞くとオリジンストーリーと思いがち。でも、これは過去に2度語られた話の練り直しではない。トビー・マグワイアは26歳、アンドリュー・ガーフィールドは28歳でピーター・パーカーを演じたが、トム・ホランドがこの役で「シビル・ウォー」に初登場したのは、19歳の時。親友ネッドとのユーモアあふれる数々のシーンも、高校生にふさわしい若々しさのある彼らだからこそ、自然でリアルに見える。アベンジャーズのキャラクター、とくにアイアンマンがやや出すぎな感じがしていたが、それも、マーベルユニバースにおけるスパイダーマンの特性をきわだたせるためだったのだとわかる。ラストも次を楽しみにさせる。