清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • 斬、
    武器の原点に集約して描く、正義の危うさと非暴力を貫く困難さ
    ★★★★★

    『野火』を経た塚本晋也が、人間の業深き暴力を突き詰め、一本の刀にたどり着いて、時代劇の定型を破壊するラディカルな映画が生まれた。武器の原点を介し戦争の根源を描く。大義のための暴力を疑わないヒロイックな古武士。人を殺めることに抵抗を抱く腕の立つ若者。彼らを主軸に、脅威としての粗暴な浪人集団や、戦を夢見る一本気な少年、そして争いを否定しながらも、いざとなれば復讐の情念をたぎらせる女性が配置されている。今という不穏な状況を反映させた構図は、専守防衛の名の下にバランスを逸す。殺陣はカタルシスの対極にある。凄惨な人殺しをまざまざと見せつけ、正義の危うさと非暴力を貫くことが困難な時代へ警鐘を鳴らす。

  • パッドマン 5億人の女性を救った男
    男を突き動かした“妻への深い愛”を超える原動力は何だったのか
    ★★★★

     2001年インドの実話だというから驚きだ。市販の生理用ナプキンが高価ゆえ不衛生な布を代用している妻の姿を見て、男は奮い立つ。親族や世間から変態扱いされても、とことん安価なナプキン作りに邁進するポジティブな活力が、インド映画ならではの悲喜劇を生む。サクセスの着地点が小さくまとまっていない点が、実にドラマティックだ。それにしても、度重なる偏見と挫折を乗り越え、なぜ彼はナプキンに執着したのか。“妻への深い愛情”では説明しきれない狂気にも似たパッションが、どのように育まれたものなのか、最後まで解明されない。古い因習を打破したのは、彼の情熱よりも世界的な成功だったという現実が前面に出てしまった。

  • 来る
    正体不明の禍々しさが襲来する、ポップで和風な恐怖映画
    ★★★★

     ホラーという括りで捉えると、本作の魅力は理解しがたいかもしれない。中島哲也監督が一貫して描き続けているのは、人間の内面的な醜さであり、癒しようのない黒々とした心の闇だ。ここでの襲い来る禍々しき正体不明の存在は、「幸福」をめぐって表出する、悪意と弱さの映し鏡なのかもしれない。全員主役級のキャスティング。彼らを手玉に取ってキャラをデフォルメし、次々と主人公を入れ替えていく演出術に舌を巻く。壮大なクライマックスに向けて畳みかける濃密な映像のテンポが心地よい。日本の土着的な伝承をモチーフにポップで和風な恐怖映画が完成した。『進撃の巨人』は叶わなかったが、中島哲也版怪獣映画が猛烈に観てみたくなった。

  • ディア・ハンター
    戦争の傷跡と大いなる後悔を追体験させる4Kリマスターの威力
    ★★★★★

     あのロシアン・ルーレットが4Kリマスターで甦った。情感あふれる寒々しい光景の中、撮影監督ヴィルモス・ジグモンドによる、出征までの青春のシークエンスが煌めいている。デ・ニーロもウォーケンもメリル・ストリープも、ただただ初々しい。ギター曲「カヴァティーナ」の旋律が映像を切なく包む。そして地獄の戦場は、より生々しくなった。長い長い旅路の末に訪れる、仲間達が口ずさむ「ゴッド・ブレス・アメリカ」。神よアメリカを守りたまえ…と祈るように静かに合唱するその姿を、今も反米的だと解釈する者はいるのだろうか。不寛容でキナ臭い時代、ヴェトナム戦争の深い傷跡と大いなる後悔に満ちた本作が訴えかけるものは計り知れない。

  • アンダー・ザ・シルバーレイク
    虚構に溺れ煉獄に留まる男の狂気が、ハリウッドの深層へと迫る
    ★★★★★

     LAのシルバーレイクと呼ばれる貯水池=人工湖は、この街を象徴する「銀幕」の暗喩。消えた美女を探し求め、ショウビズを夢見て憔悴した男は、都市の迷路を分け入りハリウッドの深層に迫っていく。ちりばめられたポップカルチャーの記号をパラノイア的に解読し、陰謀論的な真実ににじり寄る。描いているのは単なる闇ではない。虚構に耽溺し、煉獄に留まったままの男の狂気だ。表現の世界を志した者なら、この探偵小説的な時空に共鳴できるはず。だが、衒学的タッチで惹き付けておきながら、その彷徨のあまりの分かりやすさへの帰結には唖然とする。これが現代のリアルなのか。新世代のD・リンチ、R・アルトマンの誕生とまでは至らなかった。

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