来る (2018):映画短評
来る (2018)ライター4人の平均評価: 4.3
正体不明の禍々しさが襲来する、ポップで和風な恐怖映画
ホラーという括りで捉えると、本作の魅力は理解しがたいかもしれない。中島哲也監督が一貫して描き続けているのは、人間の内面的な醜さであり、癒しようのない黒々とした心の闇だ。ここでの襲い来る禍々しき正体不明の存在は、「幸福」をめぐって表出する、悪意と弱さの映し鏡なのかもしれない。全員主役級のキャスティング。彼らを手玉に取ってキャラをデフォルメし、次々と主人公を入れ替えていく演出術に舌を巻く。壮大なクライマックスに向けて畳みかける濃密な映像のテンポが心地よい。日本の土着的な伝承をモチーフにポップで和風な恐怖映画が完成した。『進撃の巨人』は叶わなかったが、中島哲也版怪獣映画が猛烈に観てみたくなった。
魔物よりも、怖いのは、やはり人間
“ホラーを作ったという感覚は、あまりない”と中島監督は語るが、それも納得。オカルトの要素を除けば、そこにあるのは人間の悪意という監督お得意のテーマだ。
妻夫木演じる育児ブロガーのようにハナっからうさん臭いのもいれば、その妻のように一見いい人だがそうでもない人もいる。そんなキャラクターの悪意のあぶり出しがサスペンスフル。法事や結婚式の列席者の心ない声を切り取る、不穏な空気の高まりも巧い。
鮮血や毛虫などのイメージを効果的に配したショック描写も光るし、魔物が何をターゲットにしているかを考えてみるのも一興だが、それら以上に人間の悪意が恐ろしく思える。イヤーな気持ちになれる逸品。
意外なところが怖かった
妙に心地よい音楽と、テンポの良すぎる会話や編集が生み出す不思議なムード。特定の人物に感情移入することを遮断する作り、などなど中島監督らしい世界が怒涛のごとく展開。衝撃描写もこのムードの流れで出てくるとそんなに怖くなく、ホラーが苦手な人にも安全かと。
前半、メインキャストの演技に違和感があるが、それが親密な者同士の意思のズレや、人間の隠れた邪悪さの伏線だったりして、その部分でゾクゾクさせられた。
「あれが来る」「あれが」とやたらセリフに出るが、実際に「あれ」と思わせぶりに連呼されるのは不自然で、やがて「あれ」の真実はどうでもよくなる。想定外な部分が面白いところが、これまた中島監督作品らしい。
ポップでキャッチーな“中島哲也版『哭声/コクソン』”
霊媒バトルな設定だけ聞くと、白石晃士監督案件だが、中島哲也監督の手にかかれば、ポップでキャッチーなエンタメ大作に! 原作同様、“子育てはつらいよ”なイクメンから、ハードボイルドなオカルトライターに主人公が替わる構成に、最初戸惑うかもしれないが(特に岡田准一ファン)、その恐怖の連鎖はブッ壊れたジェットコースターばりに止まらなくなる。そして、クライマックスの“儀式”は、怪獣映画さながらのスケールで行われる“中哲版『哭声/コクソン』”。比嘉姉妹を演じる松たか子&小松菜奈など、同窓会的キャストもいいが、個人的には22年ぶりに“スーパーの男”を演じる伊集院光がツボ!