清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ
    人種の坩堝で多様性を体感し住民と同化する傑作ドキュメンタリー
    ★★★★

     88歳のドキュメンタリー作家F・ワイズマンが見つめる、167の言語が飛び交う“人種の坩堝”。ナレーションによる一切の説明を排し、カメラは街の至るところへ入っていき、いつの間にか私たちは、人々の営みの現場に同化する。事態を把握し、愛情をもって接する撮影と、観客の生理を心得た編集技術の賜物だ。怒り、嘆き、喜び、悲しみ。そして襲いかかるグローバリズムの波。人々の息遣いを感じ、街が抱える問題点に直面し、共に考える。「我々は奪いに来たんじゃない。命と汗を与えに来た」という叫びが現政権に突き刺さるが、これはトランプ以前の街の姿。旅行者ではなく居住者の視点で、多様性と民主主義の意味を体感する189分だ。

  • 2001年宇宙の旅
    公開50年。「進化」より、繰り返される「暴力」にこそ目を瞠る
    ★★★★★

     公開から半世紀、劇中年も遥かに超え、改めて鑑賞した70ミリ版。何十回も観てきたせいか、画質や音響のディテールに拘泥する自分にふと気づき、これではモノリスに触れなかったサルへの退化ではないかと焦燥感を募らせ、IMAX版に足を運んだ。初めて観た思春期には、キューブリック言うところの「科学的に定義された神」や「進化」といった深遠なテーマに思いを馳せたが、2018年現在、最も惹き付けられた描写は「暴力」だ。武器を手にして相手を撲殺し進化した生命体は、孤独な宇宙空間でAIと対決することになる。繰り返される戦いの果て、はたして人類は次なる段階へ進めるのだろうか。あの終幕は、当分訪れそうにない。

  • ハナレイ・ベイ
    家族の死に抗う心の彷徨を、見事に演じきった女優吉田羊の新境地
    ★★★★

     ハワイの海で死んだ一人息子。抗えない現実を受け入れられない母の歳月。村上春樹「東京奇譚集」の短編が、カウアイ島を舞台に松永大司の監督・脚本・編集と近藤龍人のキャメラ、そして吉田羊の好演によって見事に肉化された。淡々としているというよりも、余白と余韻が多い映画だ。若手男優の生硬な演技に不安に陥る瞬間もあるが、ハルキ文体に縛られることなく、原作になき出来事によって膨らませ、松永は静かに待ちつづけ、終盤に懸けている。ゴースト・ストーリーを浜辺の若者たちは口にするが、母の眼には見えないという残酷。喪失感に苛まれながらも毅然と生きようとする母の抑制が崩れ出し、ただひたすら彷徨う姿が激しく胸を打つ。

  • 太陽の塔
    未来を見据えて立ち続ける生命の謎を解読する、ベラボーな意欲作
    ★★★★

     太陽の塔に込められた謎に肉薄し、岡本太郎のメッセージの核心に迫るベラボーに意欲的なドキュメンタリーだ。全9章、総勢29人の学者、批評家、学芸員、僧侶、クリエイター、アーティストらの言葉が、時にシンクロして文脈を生み出し、多面的な大きなひとつの論考が紡ぎ出されていく。縄文・沖縄・アイヌという起源。曼荼羅との関係性を探りチベットへと渡る飛躍。そして黒い太陽が暗示するもの。人類滅亡後もこの巨大彫刻/建築物は存在し、未来を見据えて立ち続けるという視点にまで拡がり、「宇宙観」が提示される。あたかも本作自体が、曼荼羅の様相を呈すのだ。のべ46時間になるという撮影素材をすべて鑑賞したい欲望にかられている。

  • 散り椿
    岡田准一の斬新な殺陣は、武の精神性を刷新した驚きと感動を伴う
    ★★★★

     キャメラマン出身ならではの美しい画に定評のあった木村大作監督が、小泉堯史の脚本を得て、愛のすれ違いと正義の在り処をめぐる物語の芯が強化され、作品に根が張ったような安定感が生まれた。そして何より、岡田准一が自ら考案もしたという殺陣が斬新極まりない。『るろ剣』以降アクションの激烈さは進化したが、本作の切れ味は異なる。とりわけ西島秀俊との一戦が凄まじい。危うい間合いまで詰め寄り、大振りせず素早い太刀捌きで、次第に膝をつくほど低く沈む。鬼気迫る真剣勝負のリアリティ。それは『ボーン・アイデンティティ』シリーズが格闘を革新したのにも似て、黒澤映画の武の精神性を現代的に刷新した驚きと感動が伴っている。

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