清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • メッセージ
    [映画]の話法を革新し[私]の人生観に変化をもたらす至高体験
    ★★★★★

    「感動的」では不充分。「哲学的」と評すだけでは思考停止に陥る。湧き起こる想いは、まず「敬意」だ。ファーストコンタクトものでありながら、対立や友好を描くわけではない。宇宙船、異生命体、表義文字――斬新極まりない形はすべてテーマへと結びつく。為政者の稚拙なプライドや好戦的な衝動が世界を危険にさらす今、改めてコミュニケーションとは何かと考えさせる。マクロな出会いを通し、実はひとりの女性の内的な物語が綴られる。語り口に息を呑む。信じて疑わなかった映画的話法を革新しながら、ヒロインの価値観の変容を、観る者にも味わわせる。これは未知なる存在との対話を通し、既成の人生観から解放される至高の体験だ。

  • スプリット
    “破壊不能”なシャマラン・ユニバースの幕開けこそ最大の驚き!
    ★★★★★

     女子高生たちと共に、観る者はいきなり謎めいた閉塞的な空間に閉じ込められる。犯人が多重人格であることで、この監禁はそれなりの恐怖と不安を醸成させていく。ジェームズ・マカヴォイから多面的な怪演を引き出すシャマラン演出は、人を食ったような手つきだ。未完の大器アニヤ・テイラー=ジョイが怯える、魅惑的な表情と肢体に救われた面が多々ある。それにしてもシャマランは稀代の策士だ。映画としては空虚ながらも、まんまと「完全復活」なる惹句を踊らせることに成功した。24人目の人格の正体など、所詮マクガフィンにすぎない。最後の最後に訪れる“破壊不能”なシャマラン・ユニバースの幕開けこそ、最大のサプライズだ。

  • 映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ
    孤独なふたりを結び付け、世界を肯定したくなる瞬間が訪れる物語
    ★★★★

     感覚的な映像で表わされる、無機質な都会の喧噪や焦燥――。石井裕也は、詩人・最果タヒの感受性豊かな言葉から、他者に無関心な東京の片隅であがく男女が反撥しながらも徐々に距離を縮める物語を、見事に肉化した。孤独なふたりは、生に懊悩煩悶し、死と隣り合わせの大都会で彷徨い続ける。ここでは不穏な予感を抱かせることばかり起きるが、それでも世界を肯定したくなる瞬間が訪れる。生きづらい街だからこそ、たやすく愛など信じようとはしないふたりは同質性を感じ、磁石のように引き寄せられたのだ。刹那に生を燃焼させることを繰り返し、若者の“なれの果て”である不器用な田中哲司の視点から、それでも生きようと叫びたくなった。

  • マンチェスター・バイ・ザ・シー
    傷ついた心に寄り添い、甦る力を信じて待つ、数年に1本の傑作
    ★★★★★

     人には還りたくない場所がある。戻りたくない人生の地点がある。忘れたい過去に別れを告げ、壊れた心を修復し再生させるのが、多くの「物語」の役目だろう。しかしこの映画は、まやかしの感動に背を向ける。痛みは、たやすく癒されるものではないという残酷な事実に誠実だ。偽善的に鼓舞しないどころか、運命がその地点に連れ戻し、過去を引きずったまま生きる痛ましい姿を、じっと見守る。悠然と流れる時間と変わらぬ風景の中で、そっと寄り添い、ただ回復を信じて待つ映画だ。今年のアカデミー賞脚本賞&主演男優賞を受賞した本作は、現実から目を背けずに人が甦生する可能性を静かに描き出し、生きる力を与えてくれる。

  • ノー・エスケープ 自由への国境
    希望の地を目指す「出メキシコ記」を待ち受ける、恐怖の人間狩り
    ★★★★

     希望を胸にアメリカへの国境越えを企てるメキシコ不法移民の一団をモチーフに、『ゼロ・グラビティ』の脚本家ホナス・キュアロン監督は、サスペンスフルな純粋活劇に仕上げた。主人公の名はモイセス。つまりモーゼ率いる出エジプト記になぞらえた神話的側面もあるが、地面が割れる奇跡は起こらず、獰猛な猟犬を引き連れライフルで狙い撃ちする白人の“人間狩り”が待っていた。砂漠と岩山が延々と続くだけの、逃げ場なき灼熱の国境における逃走劇。決して社会派映画ではないが、容赦なきバイオレンス描写は、排他性が引き起こす現実を直視させる。ただし、逃げる方向・アングル・距離感という地理的演出に、やや雑な部分があるのは残念だ。

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