ノー・エスケープ 自由への国境 (2015):映画短評
ノー・エスケープ 自由への国境 (2015)ライター4人の平均評価: 4
武装自警団がうろつくメキシコ国境ではあり得る話
砂漠を越えてアメリカへの不法入国を試みるメキシコ移民にスナイパーの銃弾が浴びせられる。ドキュメンタリー『カルテル・ランド』では国境を監視する武装自警団が登場したが、そう考えると全くあり得ない話ではないだろう。
ことさら社会派的なメッセージを強調した作品ではない。得体の知れない暗殺者に狙われた人々による決死のサバイバルを描いたシンプルなサスペンス。延々と似たような風景の続く環境下で緊張感を持続させるパワフルな演出はなかなかのものだ。
とはいえ、予定調和なストーリー展開には意外性や新鮮味が乏しい。冒頭にチラリと出てきた保安官を伏線的な隠し玉として絡めてみても良かったように思う。
希望の地を目指す「出メキシコ記」を待ち受ける、恐怖の人間狩り
希望を胸にアメリカへの国境越えを企てるメキシコ不法移民の一団をモチーフに、『ゼロ・グラビティ』の脚本家ホナス・キュアロン監督は、サスペンスフルな純粋活劇に仕上げた。主人公の名はモイセス。つまりモーゼ率いる出エジプト記になぞらえた神話的側面もあるが、地面が割れる奇跡は起こらず、獰猛な猟犬を引き連れライフルで狙い撃ちする白人の“人間狩り”が待っていた。砂漠と岩山が延々と続くだけの、逃げ場なき灼熱の国境における逃走劇。決して社会派映画ではないが、容赦なきバイオレンス描写は、排他性が引き起こす現実を直視させる。ただし、逃げる方向・アングル・距離感という地理的演出に、やや雑な部分があるのは残念だ。
トランプ時代の今、なおさらタイムリーに感じる
今作の世界プレミアは2015年9月のトロント映画祭。日本公開まで1年半もかかったわけだが、トランプ時代の今、なおさらタイムリーになったとも言える。業者に率いられ、アメリカへの国境を越えようとするメキシコの不法移民たちを待ち受ける 過酷な状態を描く、バイオレントでリアルなスリラー。不法移民を嫌悪し、政府に頼らず自分の手で始末してやろうとする白人男性を演じるのは、ジェフリー・ディーン・モーガン。 こんな役をあえて受けて見せた勇気に拍手。彼に最後まで追いかけられる主人公を、ホナス・キュアロン監督を昔から知るガエル・ガルシア・ベルナルが演じる。息をつく暇もない強烈な88分を、ぜひ体験してほしい。
メキシコとアメリカの国境、壁はなくともこの男がいる!
「ここはマイ・ホーム(俺の国)だ!」と不法移民たちをライフル&猟犬で狩りまくるカウボーイスタイルの白人男。まさにトランプ時代の暗黒到来を正確に見据えた傑作だ(2015年作品!)。88分の緊迫感は只事ではない。監督はアルフォンソJr.のホナス・キュアロン(81年生)。作劇法としては「砂漠」という広大な密室を「宇宙」でやっていたのが脚本参加の『ゼロ・グラビティ』ってことになる。
トランプ汁を濃縮したエキセントリックな差別主義者に扮するJ・ディーン・モーガンがマジで怖い。前半は『懲罰大陸USA』を連想し、後半は『眼には眼を』に近づくが、サム・ペキンパーがいま生きていたら撮りそうな一本とも言える。