清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー
    『帝国の逆襲』さえ凌ぐ!戦争活劇×父と子の物語×希望の神話
    ★★★★★

     第1作が1977年に出現したときの衝撃と感動が甦る。フォースやジェダイを取り去り、“飛車角落ち”で勝負に挑む王者の風格。新キャラ中心でSW的なるものを追究し尽くす。黒を基調とした新ドロイドや新トルーパーの適確なデザイン性。復活を遂げるキャラたちの配置。SW愛に満ちながらも、ギャレスはJ.J.のように「踏襲」することに腐心せず、「破壊と創造」というリスクある冒険に挑み、ものの見事に成功している。善と悪に明快に色分けされた物語ではない。限りなくグレーで中庸に漂う人々が、命を燃焼させ世界の救済に資する希望の神話。フォースを“信じる”盲目の戦士ドニー・イェンの殺陣は、SW史上最高の勇姿と断言しよう。

  • この世界の片隅に
    今年の日本映画ベストワンは、のんが命を吹き込んだ珠玉のアニメ
    ★★★★★

    これは戦争映画ではない。戦時下をいかに生きたかをアニメーションの力で再現してみせる、人間ドラマの傑作だ。精緻に描かれる戦前戦中の町や暮らしぶり。ヒロインの実存を信じさせるため、片渕須直監督は徹底したリアリズムを貫く。ごく日常的な動作を丹念に見せられることで、生きることへの愛おしさが募るから不思議だ。リアリズムの中に突如として空想が侵入する詩情が美しい。そしてヒロインの頭上にも爆弾は降り注ぐ。普通であり続けることの難しさ、尊さ。2016年現在の女優のん(本名・能年玲奈)自身の内面が、襲いかかる暴力の中を必死に生き延びるヒロインに重なり合う。のんを平成生まれの“自由と平和のアイコン”に推したい。

  • ミュージアム
    殺人アーティストが夫婦の愛を過激に試す猟奇ホームドラマ
    ★★★★

     一見サイコホラーの再来のように思えるが、カエル男は動機なき狂人ではない。溜め込んできた黒い情念は、呪詛に留まらず殺人に向かった。それを自ら「表現」と呼ぶのは身勝手だが、殺人理由と死体造形は、この国の壊れゆく倫理観に対するジャーナリスティックな批評性に裏打ちされている。その矛先が、家族のために仕事に身を捧げる刑事・小栗旬へと向かう。後半は、本来は他人同士だった夫婦の愛と価値観が、過激に試される物語だ。映倫に挑み、見事“R指定無し”を獲得した、アートな猟奇描写ばかりに目がいきがちだが、接近戦主体のカーチェイスの見せ方も日本映画離れしている。原作にないエンディングが、不気味な余韻を残す。

  • シン・ゴジラ
    ゴジラとエヴァを繋いで、日本の希望を新世代に託す成長の物語
    ★★★★★

    出現のひねりに舌を巻き、畳みかける緻密な画に昂ぶり、新奇性あふれる攻防に瞠目して、新世代の可能性に希望を託す国民的映画に涙が滲んだ。無謬性の神話が招く最悪の事態。だが結束して対処せんとする日本的美徳。未曾有の災厄をモチーフに娯楽映画に変換した本多猪四郎の『ゴジラ』を3.11後Ver.にアップデートする。岡本喜八の反骨の魂を父に、ウルトラ世代の映像的記憶を血流に、エヴァという果実を経て、『太陽を盗んだ男』の聖地を最終決戦拠点とし、怪獣映画を日本土着の<危機管理エンターテインメント>に昇華。物量で圧するハリウッドに対しても、知恵と不眠不休で「この国はまだまだやれる」ことを庵野秀明は証明してみせた。

  • 10 クローバーフィールド・レーン
    最大限楽しみたいのならポスターもトレーラーも観てはいけない!
    ★★★★

     事前にポスタービジュアルやトレーラーを観てしまい、後悔した。怪獣との遭遇を一人称で目撃させた『クローバーフィールド~』に対し、本作は正攻法。観客は、いきなりヒロインと共に地下の密室に閉じ込められる。主要キャラクターは、他に2人の男性のみ。何がホントで何がウソか…疑心暗鬼の状態のままテンションが持続する。新鋭ダン・トラクテンバーグ監督の演出は奇をてらうことなく、不安と恐怖に寄り添わせ、一気に解放する。演出の緩急が巧みだ。男どもの真意を読み、外界で起きている事態へ想像力をめぐらせ、状況突破を試みるヒロインの心理に、いつしか同化している自分に気づく。ラストに辿り着くまでの時間は、実に有意義だ。

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