略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
母は暴力の恐怖に怯え、その部屋の中しか知らない少年は単調な繰り返しこそが日常だと思い込まされている。命懸けの脱出に溜飲を降ろす映画ではない。社会復帰したとき、真のドラマが始まる。彼らは世間からの好奇の眼で囲まれた“牢獄”で如何に生きるのか。
善意に満ちた洗脳が解かれ、信じてきた「セカイ」が崩壊した少年は、全てをリセットして本当の「世界」を受け入れることができるのか。天才子役ジェイコブ・トレンブレイの迫真の演技と、レニー・アブラハムソン監督の慈愛の眼差しは、修復可能な無垢な魂の無限の可能性に希望を抱かせてくれる。
まず野心的な脚色に驚く。冒頭アーサー・C・クラークが未来のコンピュータを語る映像は、ジョブズが成し遂げたiPhoneに至るまでの功績を端的に表わす。事実を基に努めて客観的な伝記映画とは裏腹に、アーロン・ソーキン脚本は極めて主観的な三幕劇構成を採り、奇才の本質ににじり寄る。三幕とは、Mac、NeXT、iMacという歴史的プレゼン“直前”の舞台裏。起業家の信念、友との確執、娘との愛憎。表向きは洗練された彼のプロデュース製品の中身が、実は複雑で精密であるように、膨大なセリフによって暴かれるカリスマの実像は、煮えたぎる情熱と恐るべき狂気と不寛容、そして底知れぬ愛情が混在一体となって渦を巻いている。
“プロモーションビデオ的”という批判ワードを向けられがちな映画だが、シアターが体験の場へ変わる流れの中で、『ハートブルー』のVer.アップに膝を打つ。ドラマを接続詞と考え、アクションと撮影技術の堪能へとギアチェンジすれば、十二分に楽しめる。
犯罪集団の8つのミッションに沿って進む最尖端エクストリームスポーツの見本市は、海・空・山で過激に展開する。中でも、山頂からダイブしてフォーメーションを組んで山間を滑空する、時速230kmのウイングスーツ・フライングは圧巻。ドローン撮影ではない。キャメラマンも一緒に飛んでいるのだ。風を読み風と同化する、この飛行シーンの臨場感を味わうだけでも価値がある。
映画とはストーリーばかりを追うものではない。
人物の感情の揺らぎや高まりを共有することで、心を豊かにするものだ。
この映画は、観る者の美意識の持ちようや、恋愛経験の深度を問う。
まだ街よりも人の存在が際立っていた、50年代初めのニューヨーク。
淡い画調の中で、美術や衣装が彼女たちの覆い隠した想いを表わす。
内側に秘められていた身も心も、次第に露わにされていく。
タブーや隔たりを乗り越える熱情は、美しきアートに昇華する。
映画とはパッションであることを思い出させてくれる、至高の体験だ。
不慮の事故で、火星に独りぼっち。酸素も水も食糧も通信手段も足りない中、まず大切なのはユーモアセンスとディスコミュージック! 深刻になりがちなサバイバル映画で、この楽天性は何ものにも代え難い。フォースもワープもない現実宇宙を生き延びる最大の可能性、それはサイエンスであるという自負と肯定感が心地よい。改めて夜空を仰ぎ観る憧憬と、芽を吹く生命への感謝の念を抱かせる。
原作を超えたのは、荒漠とした赤い惑星の美しくも寒々しい光景。孤立感がより際立った。リアリティ満載の本作で唯一首を傾げるのは、中国による救援態勢。テクノロジー的に可能でも、さて?