オデッセイ (2015):映画短評
オデッセイ (2015)ライター8人の平均評価: 4.6
痩せ我慢だっていい!ユーモアこそが絶望を希望へと変える
火星にたった一人取り残された宇宙飛行士のサバイバル劇ということで、『ゼロ・グラビティ』のような息詰まるドラマかと身構えたが、いい意味で裏切ってくれた。
どう考えたって絶望的な状況にも関わらず、常に前向きでユーモアを忘れないマット・デイモンの逞しいこと!冷静沈着に現状を分析判断し、限られた資材から生き残る術と地球へ戻る方法を模索していく。そんな彼の救出作戦に乗り出す仲間たちのドラマを含め、人間讃歌とも呼ぶべき明朗さが魅力だ。
エンディングのグロリア・ゲイナーなど、70年代ディスコを中心とした音楽の使い方も絶妙。船長が狂喜乱舞するのはABBAの75年ベストのオリジナルWジャケ盤だね。
ユーモアとポジティブ思考とサイエンスこそサバイバルの決め手!
不慮の事故で、火星に独りぼっち。酸素も水も食糧も通信手段も足りない中、まず大切なのはユーモアセンスとディスコミュージック! 深刻になりがちなサバイバル映画で、この楽天性は何ものにも代え難い。フォースもワープもない現実宇宙を生き延びる最大の可能性、それはサイエンスであるという自負と肯定感が心地よい。改めて夜空を仰ぎ観る憧憬と、芽を吹く生命への感謝の念を抱かせる。
原作を超えたのは、荒漠とした赤い惑星の美しくも寒々しい光景。孤立感がより際立った。リアリティ満載の本作で唯一首を傾げるのは、中国による救援態勢。テクノロジー的に可能でも、さて?
ユーモアで常識を超える“スターマン”に拍手
ゴールデングローブ賞で<コメディ/ミュージカル>部門に分類されたのは、さすがにどうか思うが、ユーモアが宿る作品であることに間違いはない。
苦を苦と思わせない主人公のバイタリティはセリフからもあふれ出ており、“火星よ、わが植物学の力を恐れるがいい!”といったジョークから、学者らしからぬ四文字言葉の連発まで、ニヤリとさせる要素にあふれている。
全編にあふれるディスコ曲も歌詞がジョーク的で訳詞が欲しくなる。故デヴィッド・ボウイの“スターマン”がフルコーラス流れることには驚いたが、困難な状況も笑って乗り切る主人公を見ていると、彼こそが人智を超えたスターマンじゃないかと思えてくる。
城島リーダーの姿とカブります。
またも宇宙でぼっちなマット・デイモンだが、窮地に立たされてもジョークで吹き飛ばそうとするポジティブさは、『ゼロ・グラビティ』のコワルスキーのようだ。しかも、ほど良い緊張感とほのぼの感が混在するビニールハウス大作戦は「DASH村」であり、世界が固唾を呑んで見守るクライマックスは「24時間テレビ」マラソンに似たイベント感を醸し出す。また、クリステン・ウィグやマイケル・ペーニャなど、笑いを取れるキャストを配するなど、リドリー・スコットの『エクソダス』からの振り幅のスゴさに思わず感動。大市場・中国に媚び売る展開は気になるが、航天局(CNSA)主任が『ザ・ミッション』のボス役、エディ・コーなのでチャラ!
リドリー&D.ゴダードのSF趣味と陽性な部分が合致。
原作はリアリスティックかつ綿密にサヴァイヴァルを紡いだ冒険小説の傑作だが、リアルを土台に奇想をヴィジュアル化するリドリー・スコットであるからディテイルに至るまで抜かりなし。でも本作の焦点はむしろ、ディスコ・ミュージックと懐かしTVを心の糧に次々と降りかかる難題を克服していくM.デイモンと、NASAの宇宙オタクたちのおおらかな楽天性にある。ま、語りのテンポにドライヴ感がありすぎるので過酷な状況描写がややサクサクし過ぎてコクが足りないが、これをコメディとして捉えるならこれも美点に転じるのだな。「エルロンド計画」と言わせたいがためだけにショーン・ビーンを起用するような余裕のキャスティングも楽しい。
宇宙飛行士のスーパーマンっぷりに元気をもらえる快作
NASAの英知に感心しきりの『アポロ13』に似た部分もあるが、本作で感心するのは孤高の宇宙飛行士ワトニーの開拓精神あふれるスーパーマンっぷり。水と酸素を作り出し、ジャガイモを栽培し、地球と交信し、次々に困難を克服。知力・体力・気力は十分だし、ユーモアを忘れない姿勢に元気をもらえる。ワトニーのキャラが突出するが彼を救おうとする人々も個性たっぷりで、緊張感と笑いの絶妙なコンビネーションに魅了されるのは必至だろう。芸達者な役者陣の演技合戦も小気味いい。もちろんリドリー・スコット監督なのでビジュアル面はディテールも凝っているし、迫力たっぷり。C国に媚びた展開が鼻につくが、欠点はそれだけ。
火星の美しさはリドリー・スコットだからこそ
ユーモア感覚は、極限状況下でのサバイバルにおいて有効である。不可能に見える状況を打破するのは、常識に縛られない発想である。そんなステキな世界の在り方を描いて、見る者の胸を熱くさせてくれる。
それだけで充分なのに、その背後に広がる光景が、ひたすら美しい。どこまでも広がる火星の赤い大地の、生命の痕跡をまったく感じさせない、静かさ、清潔さ。宇宙空間を行く巨大な有人宇宙船の白い表面が、遮るもののない空間を渡ってきた光を反射して放つ微かな光の、冷たさ、清浄さ。ただリアルなだけではなく、その美しさで見る者を魅了する世界が創造出来たのは、リドリー・スコット監督だからに違いない。
陽性のサバイバルが最高!
ゴールデングローブ賞ではコメディ扱いで高評価を受けたが、確かにこのポジティヴな姿勢は痛快すぎて笑ってしまうほど。独りの人間が合理的に独自の生活様式を立ち上げていく様は、まさに『ロビンソン・クルーソー』の変奏。大人も童心に戻って楽しめるワクワク感があり、ビニールハウス栽培のくだりは本当興奮した。最近のSFはどれもアイロニカルだが、これは科学の可能性を素朴に信じられた時代の大らかな匂いがする。
音楽面もユーモアが効いており、某ジャンル責めという大ネタがあるので、D・ボウイ(合掌)の名曲「スターマン」が流れた時にはすごい解放感が。M・デイモン超好演。冗談抜きで『のび太の宇宙開拓史』との二本立希望!