略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
5人のキャラを生かした役柄でありながら、いつも全力投球のアイドルとは異なるももクロがいる。生硬さが目立つ序盤から終幕へ向かうにしたがい、高校演劇部員たちは女優になっていく。少女の今をキャメラが追いかけるドキュメントという意味において、まさに正統派アイドル映画。普通の女の子との境界線を漂う彼女たちは、演じることでアイドルの仮面を脱ぎ、思春期の素を露わにする。女優の夢を捨てた教師役として彼女たちを牽引する、黒木華の存在感が絶品だ。ヨーロッパ企画と組んだ作品では演劇的なフォーマットを残していた本広克行演出は、平田オリザと組むことで絶妙なセリフの間と表情を得て、奇蹟的かつ映画的な瞬間をすくい取った。
『陽だまりの彼女』で上野樹里の感性演技を封印し、『ホットロード』では能年玲奈に陰りを加えた三木孝浩監督は、新垣結衣から笑顔を奪い去った。屈託がないように見える少年少女も、小さな心に傷を負っている。“現代版『二十四の瞳』”のガッキー先生は、生徒と一緒に泣いてあげることはなく、彼らの事情に立ち入ろうともせず、ただ寄り添う。そして祈りの島・五島列島のやさしい風と共に、彼らをそっと包む。皆の心を解き放つのは、音楽。悲しみに打ちひしがれた者たちが、歌の力によって希望を取り戻し、一歩前へと歩み出す。三木孝浩の脱・青春アイドル映画は、ふたたび前進するために立ち止まり、生きていく喜びを確かめる珠玉の抒情詩だ。
元祖スーパーヒーロー映画で注目され、栄光にさいなまれ、もう一度認められたいと願う初老の男を“元バットマン俳優”が演じる。そう、虚構が現実に侵入する。認知されるだけならたやすいネット社会を揶揄し、壮大な幻想が支配する映画界をブラックな笑いで牽制しつつ、俳優の身体性とは? 真のエンターテインメントとは? と問う。時折ヒーローの囁きを聴く主人公の“超自我”ともいえる主観描写のキレ味が鋭い。それは、夢を抱かせる映像にどっぷりと浸かってきた現代人の内面そのものだ。ハリウッドの現状を憂いながらも、心の奥底にある飛翔願望が、実はヒーローを希求しているというメビウスの環のような作品構造に舌を巻く。
一人の男を通し、戦争の昂揚と不条理と無惨が冷静に描き出される。仲間を守ることに無上の価値を置き、イラク戦争を志した実在の兵士。報復に燃え精確無比に大勢を射殺した狙撃手は“伝説”と称えられたが、イーストウッドの視点は極めて客観的だ。敵の狙撃手との一騎打ちという娯楽アクション要素を用意しながらも、演出はまんまと欺く。『ダーティハリー』の正義の在りように落とし前を付けたのが『グラン・トリノ』なら、本作は第2次大戦の英雄神話を暴いた『父親たちの星条旗』の延長線上に位置する。戦場にヒーローなどいない。「愛する者を守るため」という大義名分の末路に戦慄が走る。エンドロールで聴く“音”は、自分自身の叫びだ。
悲しみをたたえた大きな瞳の人々。絵画の中の彼らは、私はここにいると真実を告げることが出来なかった描き手マーガレット・キーンその人に違いない。時節柄ゴーストライター騒動と比肩されがちだが、クリストフ・ヴァルツ扮するアーティストの手柄を横取りして芸術を騙る男は、表現すべきものが無いのに生き延びるためにアートをビジネスに変換したあらゆる策士のメタファーだ。大作を手掛けても空虚な駄作続きだったティム・バートンが、長いトンネルから脱出した。才能ある者や真の貢献者が追いやられ、したたかにプロデュースし我が物顔で振る舞う者が脚光を浴びるアートやショウビズの世界において、本作は救いのバイブルになる。