ペンギン・ハイウェイ (2018):映画短評
ペンギン・ハイウェイ (2018)ライター3人の平均評価: 3.7
少年の眼差しで「世界と女性」を仰ぎ見るセンス・オブ・ワンダー
なんという瑞々しさ! 小学4年生がノート片手に、ペンギンが大量発生した謎と魅惑的な女性との関係性を解明しようと挑むジュブナイル冒険譚。スタジオコロリドの石田祐康監督は、あくまでも少年の視座からセンス・オブ・ワンダーに満ちた物語に仕上げている。生真面目な探求心が高じて猪突猛進するかのような「ペンギン・パレ―ド」の快楽に満ちた躍動感。揺れ動く弾力性のある深遠な「海」に象徴された不可思議やリビドー。森見登美彦の原作をベースに、独自のアニメーション表現の獲得に成功している。世界の謎と性的な芽ばえ――未知へのあこがれが、思春期の入り口に差し掛かった少年を成長させる、ひと夏の抒情SFとして秀逸だ。
アニメ化の意味を十分に達成させた野心作
少年のひと夏の成長にSF的世界を融合させ、絵柄もアニメの王道路線。宮崎駿、細田守、新海誠の路線を受け継ぐ夏休みらしい作品と思いきや、「一筋縄ではいかない」複雑怪奇な世界観が逆に新鮮だった。
原作自体も数式が出てきたり、思わせぶりな表現が多数あったりと高難度で、その持ち味を保ちつつ、文章から思い描くとリアルなペンギンが、アニメになることで「ほっこり感」が加味されるなど、新たな魅力が立ち現れる。理路整然とした解釈を要求する観客には不向きかもしれない。しかし想像力を広げる余白を十二分に残した作りが、主人公の「僕にはわからない。でも本当はわかっているかも」というセリフと見事に重なり、感動が押し寄せた。
実はれっきとしたSFである
少年の成長物語でありつつ、実はしっかりSFである。とてもリリカルな。主人公は小学4年生男子だが、それより幼い妹が、人間はある程度の時間を経たのちにいずれにしても死ぬものだということを、生まれて初めて実感し、そのため泣いてしまう場面があり、すると主人公が妹に人間とはそういうものなのだと言い聞かせる。そのシーンに代表されるような、"時間"という認識をめぐる叙情SFにもなっているのだ。そんな、いつも見ているものの中に、別の何かをも見てしまう世界を描くのに、アニメーションという手法が最適。見慣れた風景の中にペンギンたちが湧き出てきても、そういうこともあるかもしれないという光景に見えてくる。