略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
モノクロ映像に刻まれた103歳の老女の皺が多くを語り、インサートされる戦時下ドイツの初公開記録映像が、その証言を深く考察させる。証言者は、ヒトラーの右腕として時代を牽引した宣伝相ゲッベルスの元秘書。よりよい暮らしを求めてナチスへ入党した女性の戦争責任を追及する目的はないが、ホロコーストについて「知らなかった」「私に罪はない」という言葉からは、アイヒマンと立場は違えども、もうひとつの“悪の凡庸さ”という視点が立ち上がる。信念や批判力を失った普通の人々の無自覚や無責任の総体こそが悪の本質であると自覚させ、戦争へ突き進み蛮行が行われる上で、改めて生活者の態度を問い、覚醒させる力がある作品だ。
3人の旧友が旅をする。ベトナムで心に傷を負った50代男が仲間と共に、イラクで命を落とした息子の遺体を引き取りに行く重めのロードムービーを、笑いを織り交ぜ、寄り道しながら軽妙に綴っていくリチャード・リンクレイターの語り口は、さながら『20才だったボクが、大人になってから。』。そこはかとなく立ち上る痛恨の念。政治的信条や正義といった価値観が後退し、経済性のためのディールとフェイクが優先されるトランプの時代が、映画を覆う。原作者が同じ『さらば冬のかもめ』はもちろん、べトナム戦争を描いた作品群のその後といった趣もあり、70年代アメリカ映画を愛する映画ファンたちの同窓会としても胸に迫るものがある。
あらゆる映画が作為的に思えてくるほど、ホン・サンスの描く男と女は、ありのままであからさまだ。たわいない会話、痴情のもつれ。上昇することなく、ただぐるぐると、ありふれたみっともない行状を繰り返し、その円環が閉じることはない。高名な評論家にして出版社社長である中年男は、高等遊民よろしく、どこか浮遊する存在。女性を前にして、打算に満ち情けないその言動は、監督自身の自虐的な自画像であるばかりでなく、ほぼすべての男性性の正体であろう。露わになる男女の本性と対照的なのが、諍いから距離を置くキム・ミニの圧倒的な美しさ。愚かさと可笑しみを包む神々しいまでの眼差しは、螺旋を天空から見下ろすかのようだ。
YouTube270万回再生動画から長編劇場映画へ。VFXスーパーバイザーの初監督作だ。設定は込み入っており、何が起こっているのか、いささか複雑。一言で言うなら、地球の危機を救うため主人公が複製世界(エコーワールド)へ送りこまれるSFクライシス。現実を客観視点で、複製世界を一人称で映し出すヴィジュアル感覚が最大の見どころだが、終末感漂う舞台背景とキャラクター描写が、撮影や視覚効果といったテクニックの二の次になっていることは否めない。ストーリー性のあるPOV「映画」よりも、体感性を強調するFPS「ゲーム」として再開発した方が、この企画はブレイクするのではないだろうか。
本作で3度目のオスカー候補となった女優シアーシャ・ローナン(94年生まれ)の演技は、練達の域。田舎と都会、娘と母、少女と青年…様々な対立軸の中、若さ故に理想と現実の狭間でジタバタして巻き起こす、女子高生の姿をヴィヴィッドに体現している。ただし“真の主役”は女性監督グレタ・ガーウィグ(83年生まれ)だ。自らの体験からイマジネーションを拡げ、女性の内面を視覚的な表現へと昇華する術に長けており、スピルバーグが嫉妬したのも頷ける。母が運転する車中での言い争いの最中、ヒロインが自らドアを開けてクルマから転がり落ちる冒頭シーンを始め、思春期の衝動・反発・激情を表現する名場面は枚挙にいとまがない。