それから (2017):映画短評
それから (2017)ライター2人の平均評価: 4
愚かさと可笑しみを包む神々しさに達したホン・サンス映画の境地
あらゆる映画が作為的に思えてくるほど、ホン・サンスの描く男と女は、ありのままであからさまだ。たわいない会話、痴情のもつれ。上昇することなく、ただぐるぐると、ありふれたみっともない行状を繰り返し、その円環が閉じることはない。高名な評論家にして出版社社長である中年男は、高等遊民よろしく、どこか浮遊する存在。女性を前にして、打算に満ち情けないその言動は、監督自身の自虐的な自画像であるばかりでなく、ほぼすべての男性性の正体であろう。露わになる男女の本性と対照的なのが、諍いから距離を置くキム・ミニの圧倒的な美しさ。愚かさと可笑しみを包む神々しいまでの眼差しは、螺旋を天空から見下ろすかのようだ。
ヌーヴェルヴァーグの香り漂うホン・サンス流女性賛歌
尊敬する出版社社長は、蓋を開けてみれば浮気性で恐妻家の優柔不断なダメ男。出社初日から社長夫人に不倫相手と勘違いされ罵倒され、さらにはひょっこりと戻ってきた社長の愛人にあっさり仕事を奪われてお払い箱となるヒロイン。はい、訳知り顔で女性にウンチクを垂れるインテリ男ほど信用なりません。
で、そんな踏んだり蹴ったりな騒動の顛末を、モノクロームの柔らかな映像でユーモラスに映し出しつつ、ままならぬ人生をしっかりとした足取りで歩もうとする女性の強さと決意を鮮やかに浮かび上がらせる。ヌーヴェルヴァーグの香り漂うホン・サンス監督の演出、ナチュラルでしなやかなキム・ミニの芝居。実にセンスの良い小品佳作だ。