ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド (2021):映画短評
ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド (2021)ライター4人の平均評価: 3.3
あなたのザ・スミスはどのバンド?
愛するバンド、ザ・スミスの解散にショックを受けた高校生4人組と過激な行動に出たレコード店従業員の一夜を描く愛すべき青春の1ページ。閉塞感を抱えた若者たちが若気の至りの行動から教訓を得て、少しだけ大人になる展開はお約束だが、同バンドの曲やインタビュー映像が登場人物の気持ちを代弁する構成がチャーミング。「モリッシー、若いわ〜」と懐かしさが込み上げ、個人的にショックを受けたバンドの解散やミュージシャンの急死に思いを馳せてしまった。レコード店のインテリアやE・コルトレーンが演じる従業員のファッションにも80年バイブが漂い、グッときた。ヘビメタ専門ラジオ局DJ役のJ・マンガニエロがいい味出している。
そう、こんなボンクラたちがスミスを愛したんだよ!
私事で恐縮だが、学生だった頃、デビュー時からザ・スミスを追いかけ、解散時にショックを受けた身には、他人事と思えない。
スミスは鋭い内省によって、ロックの可能性を開いた革新的なバンドだった。世の中にうまくコミットできない若者の気持ちをすくい上げるバンド。そのファンは、こんな人たちでした……というカタログ的視点はドキュメンタリー監督キジャックらしさだ。
記録映像でスミスの紹介を交え、そのフラットな目線のままでフィクションを紡ぐ。誰もが思春期の地獄を生き延びなきゃならない。一部の人間にとってスミスとは、そのためのサウンドトラックであったのだ。
スミス解散に心動かされた、忘れられぬ一夜
ザ・スミスのファンなら、一度は聞いたことがある“ラジオ局ジャック事件”を映画化。この題材を扱い、タイトル曲や絶妙なタイミングの「パニック」など、名曲の数々が惜しげもなく流してくれるだけで、作り手のスミス愛を感じる。また、解散に衝撃を受けたファンを中心にした群像劇&“ワンナイト”ものになっており、カギとなる乗っ取り犯を『6才のボクが、大人になるまで。』のエラー・コルトレーンが好演。いろいろと共通項がある『プリティ・イン・ピンク』がヒロインの“愛情の裏返し”として登場するほか、『アメリカン・グラフィティ』『バニシング・ポイント』など、アメリカン・ニューシネマの匂いも全編に漂う。
曲が流れると、あの頃の気持ちがよみがえる
1987年、当時の英国の人気バンド、ザ・スミスが解散。そのニュースを聞いてショックを受けた、このバンドを愛する高校を卒業したばかりのティーンエイジャーたちの1日を描く。のだが、彼らが暮らしているのが英国ではなく、米国デンバーの田舎町なところがポイント。大好きなものとの物理的距離の遠さ/心理的距離の近さが、同じくらいだったことのあるすべての人々の物語になっているのだ。映画本編にこのバンドの当時の映像が流れたりするのも楽しいが、それとは別に"自分にとってのザ・スミス的なるもの"に置き換えながら見るのも一興。その一方で、久々に聴くザ・スミスの音が記憶よりもキラキラしていて、そんなことも感慨深い。