略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
美人女優M・フォックスが傭兵役という時点で80年代のビデオスルーB級映画の香りが漂い、食指が動いた。女隊長サムが屈強な男たちを率いて危険なミッションに挑み、次々と想定外の出来事に見舞われる展開は悪くない。意味はちと違うけど、前門の虎と後門の狼って感じだ。華奢なフォックスが巨大な銃を軽々と扱っていて、かなり特訓した模様。イスラム過激派による女子学生誘拐へのアンチや逆境に負けない女という今どきのテーマもしっかり組み込まれているが、獣医志望だったM・J・バセット監督が本当に伝えたかったのはライオンの缶詰狩りへの問題的提供だろう。ライオン狩りをしたい人間は素手で戦えと思う身としては、雌ライオンを応援!
大麻ビジネスをめぐって入り乱れる有象無象のキャラクターを見事に捌き、時間軸を自由に動かし、皮肉なユーモアも交えた遊ぶ心たっぷりの脚本にニヤリ。ガイ・リッチー監督の初期作品を思わせるテイストのクライムものだ。特に笑えるのがC・ファレル演じるジムのコーチと彼に鍛えられている不良少年軍団。お揃いのトラックスーツ姿で一攫千金YouTuberを目指し、犯罪の記録をネットに残すボンクラ軍団の尻拭いをするコーチの善良さは犯罪が横行する物語の一服の清涼剤? 優れた頭脳で下剋上を成したヤンキーより、イギリス下町でそれなりに生きるラッドに共感しきり。それにしてもH・グラントは卑劣なキャラがお似合いになったなぁ。
久しぶりに会った高校の同級生と言葉を交わす瞬間に過去に戻っていく感覚に覚えあり。「あるある」と思わせるシーンや台詞が次々に登場し、懐かしいようなこそばゆい思いが込み上げる。しかし過去の友情を再確認し、前に進む青年像という単純な話ではなく、切なさや理不尽な人生への怒りが内在する奥行きの深い物語だった。人生って、本当に何が起こるか分からない。自身の体験をもとに、その時に感じたであろうさまざまな感情を見事に集約させた松井監督の筆力に感服する。主演の成田凌は出演作ごとに魅力が増しているし、個性派の浜野健太や藤原季節がとてもいい味を出している。初めて見たが、目次立樹はいいバイプレイヤーになりそう。
富豪女性との結婚で享楽的な生活に耽溺し、才能を無駄にした詩人というキャラ解釈が間違っていたと思わせる展開の人間ドラマだった。M・マコノヒー演じる詩人は全てにおいてフラットで、場当たり的な生活に満足している感じが素晴らしい。カリスマ的な魅力を放つ彼の周囲に集まるヘンテコな人々もどこか壊れているけれど、そこが逆に愛おしさを感じさせる。役者陣も振り切った演技を楽しんでいるし、H・コリン監督が巧みな人間観察力を発揮している。ボンゴを叩く自虐的なギャグ演技を披露しながら詩を紡ぎ出すマコノヒーだが、詩が天才的なの?という疑問は拭いきれない。まあ、でも本人が幸せならそれでいいよね。
T・ハイゼ監督が家族の間で交わされた手紙や日記などを使って100年に亘る家族の歴史を振り返る。軍靴の音が響くなかでドイツ人の祖父と混血婚をした祖母、生に貪欲な母親の恋、シュタージの監視対象となったハイゼ家、監督自身の自我の目覚めなどが時代順に語られる個人的記録にも思えるが、実は個人というものは国家に翻弄される存在と実感させられる。コラージュ的な映像とフラットな解説、場面の切り替えに挿入される意味深な風景映像は、観客に行間の意味を解き明かすように求めているかのよう。ハイゼ監督作はこれが初見だが、機会があれば他の作品も見てみたいと思わせる哲学的な作品だった。ただ、ちょっと長すぎ。