ある人質 生還までの398日 (2019):映画短評
ある人質 生還までの398日 (2019)ライター2人の平均評価: 4
身代金ビジネスの実態にも驚かされる
内戦に揺れるシリアを取材していたデンマーク人の戦場カメラマンが、当時勢いを増していたイスラム過激派組織ISに拉致され、祖国で待つ家族は彼を救出するために奔走する。’13~’14年にかけて実際に起きた出来事の映画化だ。連日のように拷問を受けて虫けら同然に扱われ、死ぬことさえ許されない捕虜生活の地獄。憎悪に目がくらんで理屈の通用しないテロリストたち。テロと交渉しない政府方針のため、自力で救出せねばならない家族の焦り。その全てを徹底したリアリズムで描くわけだが、中でも興味深いのは身代金ビジネスの実態を克明に描いている点だろう。最後の最後までどう着地するのか見えない緊張感に固唾を吞む。
誘拐ビジネスは、最悪なもう一つの戦争だ
ISに拉致されたデンマーク人カメラマンと、身代金を要求された家族の試練が緊張感たっぷりに描かれる。手持ちカメラや照明を制限したドクマ95風な映像もあり、拉致被害者の過酷な状況が生々しい。N・A・オプレヴ監督は心身を疲弊させる拷問も容赦なく描写し、被害者の苦しみを見るだけでも胸が痛む。実話なので斬首されたアメリカ人ジャーナリストやジハーディ・ジョンらしき男も登場し、緊迫感が増す。“テロリストとは交渉しない”国家方針に手足をもがれる家族の苦悩も想像を絶する。戦争の真実を伝えるジャーナリストの使命感を逆利用する誘拐ビジネスはもう一つの戦争だし、民間人が被害者という点で戦争犯罪だと憤る!