山縣みどり

山縣みどり

略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。

近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。

山縣みどり さんの映画短評

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  • 羊飼いと風船
    伝統と近代化の狭間で女は何を思う?
    ★★★★★

    昔ながらの生活様式を続けるチベットの羊飼い一家に近代化の波が押し寄せる、と書くと自然と共存するエコな生活をハイテクが脅かすイメージが浮かぶかも。ただ、伝統的な生活の現実はもっと厳しい。特に女性にとっては! 家事や育児、羊の世話で1日働き詰めの主婦ドルカルが望まぬ妊娠をしてから感じ始める心の揺れは、女性なら身につまされるはず。輪廻転生を信じる家族との軋轢は悲しいが、身を斬る思いの決断にチベット女性の覚醒が見える。伝統や宗教に縛られる女性は弱者であり、犠牲を払わされることも少なくない。が、伝統を維持してきた女性が変化のきっかけを作ることもあると思わせる作品だった。

  • キル・チーム
    マフィアのような殺人部隊の恐ろしさ
    ★★★★★

    アフガニスタン民間人殺害事件で有罪判決を受けた若き兵士の視点から事件の全貌を暴く実話ドラマだ。911以後、聖戦という名目で復讐めいた行為を行なっていた米兵の存在は想定内(当然、人種差別的な感覚があったはず)だが、マフィア的な沈黙の掟が部隊内に浸透していたことが恐ろしい。かつて米軍ではLGBTQに対して“訊くな、答えるな”規制があったが、犯罪に対してもだった!? 軍人だった父親に倣って国を守るという大望を抱いた主人公がサイコパスのような上官に毒され、倫理観と保身の間で悶々とするさまがドラマティック。監督はこの事件をドキュメンタリー映画化したので、当事者の心理がよく理解できていたに違いない。

  • KCIA 南山の部長たち
    権力闘争は、宮廷時代から脈々と続く一種の伝統芸?
    ★★★★★

    朴正煕暗殺事件を主犯である金載圭の視点から辿っていて、史実に忠実と思わせる。コリアゲート事件の収束という名目の暗殺などを実行した主人公が真っ暗な底なし沼から浮かび上がろうと必死にあがく姿にリアリティがある。演じたイ・ビョンホンはイケメン俳優のオーラを抹消し、権力の亡者と化した大統領を正気に帰らせようとして最後の手段に出る南山の部長を熱演。また部下に忠誠を求めるだけではなく、彼らをアメと鞭で操る不気味な大統領をイ・ソンミが巧みに演じていて、本当に憎々しい! 宮廷が舞台の韓国時代劇でもお馴染みの権力争いや深謀遠慮が現代にまで脈々と続いているのも驚き。

  • パリの調香師 しあわせの香りを探して
    オドラマ・システムでの上映で見たかった
    ★★★★

    嗅覚を失くすことを恐れる調香師が親権と仕事を失いかけている運転手との出会いで、人生を変えようと決意するまでをテンポよくまとめている。それぞれが抱える問題点をつまびらかにする展開も自然だし、二人が足りない部分を補いつつ前進する流れも説得力アリ。演技派E・ドゥヴォスが傲慢に見えて実はもろいヒロインを愛らしく演じ、運転手役G・モンテルはユーモアを吹き込む。この二人のバディ感の築き方も好感度高し! 調香師なので香りを分析するのが習慣で、
    香りを体感できるオドラマ・システム上映で見ればさらに臨場感が増したはず。エルメスの調香師が協力した作品でもあり、『ポリエステル』とは異なる華やかな香りに包まれたはず。

  • 聖なる犯罪者
    なりすまし聖職者が信仰の本質をつく
    ★★★★

    美女にバカにされて思わず「自分、神父ですから」と見栄を張った前科者ダニエルが分断した村を再生、というおとぎ話のようでいて苦さが残る贖罪ドラマ。最初から最後まで、主人公が本当に生まれ変わったとは思えない点がリアルだ。演じるP・ビィイレニアが悪人から聖人までを巧みに演じわけていて、見事! 聖職者として尊敬を集めるうちにその気になった青年が型破り神父として善行を始めるが、ここで問われるのがキリスト教徒としてのあり方。「罪を許し、人を憎まず」は言うは易く、行うは難しだ。そして敬虔な村人に信仰の本質を思い出させたダニエルが得たものは? 信じるものは救われるはずだが、そうでない場合もあるね。

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