キル・チーム (2019):映画短評
キル・チーム (2019)ライター6人の平均評価: 3.5
メンタルをえぐる悪夢のような戦場
派手な戦闘シーンほとんどなし、という意味では“アフガン版『ジャーヘッド』”ともいえるかもしれないが、誰もが思い描くものとはかけ離れた正義や、集団心理の恐ろしさなど、メンタルをえぐる悪夢のような戦場が続く。鬼軍曹役のアレクサンダー・スカルスガルドの存在感もスゴいなか、“殺人部隊”に命を狙われてもおかしくない状況に追い込まれる主人公に、感情移入できるかどうかで評価は変わってくるはず。リンチなどの事実にも追及したダン・クラウス監督による後日談的なドキュメンタリーが放つインパクトには欠けるが、アメリカでの評価が真っ二つに分かれたあたり、さすがはA24配給作といえるかもしれない。
倫理観を失い殺人集団と化した米兵チームの実話
アフガニスタンに駐留する米陸軍の小隊チームが、子供や老人を含む丸腰の一般市民を殺害していたという実話の映画化。メンバーの中で唯一、良心の呵責から危険を冒して真実を明るみにしようとした新兵の視点で描かれる。タリバンによるテロ攻撃で米兵が日々犠牲になる中、仲間の命を守るために治安維持の任務にあたる若者らが、俺たちの仕事は人を殺すことだと豪語する上官のもとで倫理観を失い、やがてその目的が「野蛮な現地人」を殺すことにすり替わっていく。大義名分と仲間意識によって自己を正当化していく兵士たちの集団心理の恐ろしさ。戦争の狂気の一端を生々しく垣間見る力作だ。
親と子のつながりを通して問う、戦争の無益
この戦争ドラマで何より注目すべきは、父と子の関係。内勤の軍人だった父のために、あるいは父を超えるためにアフガンに赴任した主人公の若き兵士は、その象徴だ。
一方には、息子を祖国に置いてきた上官がいる。非道も軍人の仕事と割り切り、進んで手を汚していく殺人マシン。主人公の仲間たちもこれに倣い”キル・チーム”ができあがる。それに反感を抱く主人公の苦悩が物語を動かす。
軍人の仕事は人を殺すこと……という思想はある意味では正しいが、別の意味では誤り。本作では米軍に殺される人間もまた、誰かの父であり誰かの息子であることを強く意識させる。親子という最小限の人間関係を通して戦争の無益さを見つめた秀作。
マフィアのような殺人部隊の恐ろしさ
アフガニスタン民間人殺害事件で有罪判決を受けた若き兵士の視点から事件の全貌を暴く実話ドラマだ。911以後、聖戦という名目で復讐めいた行為を行なっていた米兵の存在は想定内(当然、人種差別的な感覚があったはず)だが、マフィア的な沈黙の掟が部隊内に浸透していたことが恐ろしい。かつて米軍ではLGBTQに対して“訊くな、答えるな”規制があったが、犯罪に対してもだった!? 軍人だった父親に倣って国を守るという大望を抱いた主人公がサイコパスのような上官に毒され、倫理観と保身の間で悶々とするさまがドラマティック。監督はこの事件をドキュメンタリー映画化したので、当事者の心理がよく理解できていたに違いない。
ドキュメンタリーと両方観る価値がある
同名の短編ドキュメンタリーを同じ監督が劇映画化したものだが、時系列的にこちらはドキュメンタリーの「前」の話。「そこ」であったことを、緊迫感と恐怖たっぷりに語っていくものだ。上司と同僚の行動に抵抗を覚える主人公は、果たして正義感を貫けるのか。観る者を引き込み、はらはらさせ、なんとかまっすぐなまま彼に生き延びてほしいと願わせるのはお見事。監督が、ドキュメンタリー製作を通じて、本人たちの話を十分聞き、完全に理解していることも、状況や心情のリアル感を高めたと思われる。ヒーローとほど遠い米軍兵の実態を描いたという意味でも、アクションのない戦争映画という意味でも、ユニークな作品。
戦場で生き延びることを妨げるのは敵だけではない
戦場での生死を左右するのは、敵だけではない。まず、自分が所属する軍隊の中で生き延びなければならない。上官や同じ集団の兵士たちが不正を行うときも、もしもそれを不正だと主張すれば、自分が同僚から攻撃される。そんな異常な状況が、記録映画のようなタッチで描かれて、これが実話であることを際立せる。衝撃的な出来事が起きるときも、あえて、それがよくあることであるかように淡々と描き出す。不法行為をする上官や仲間達も単純な悪人には描かず、彼らの愛すべき一面も、それぞれの行動には理由があることも描いていく。そして異常な状況が、異常には見えなくなってしまいそうになる。その静かな恐ろしさがリアルに伝わってくる。