略歴: 茨城県出身。スポーツ紙記者を経てフリーの映画ジャーナリストに。全国商工新聞、月刊スカパー!(ぴあ)、時事通信などに執筆中。
近況: 映画祭で国内外を飛び回っているうちに”乗り鉄”であることに気づき、全国商工新聞で「乗りテツおはるの全国漫遊記」を連載。旅ブログ(ちょこっと映画)もぼちぼち書いてます。
吉永小百合の存在が大き過ぎて、幻想を抱いた役になりがちだが今回は比較的等身大。しかも現役医師の原作で、脚本は山田洋次監督作を手がけている平松恵美子だ。自ずと娯楽の表層をまとったピリリとした社会派ドラマを期待していたが、先に同じ在宅医を主人公にした『痛くない死に方』と同作の医療監修を務めた長尾和宏先生のドキュメンタリー『けったいな町医者』が公開され、在宅医療に頼らざるを得ない患者の事情も死の現実もとくと描いていただけに、それと比較すると物足りなさが残る。ラストが非常に重いテーマを投げかけているだけに、豪華キャスト映画の弊害か、そこに至るまでのエピソードの盛り込み過ぎとテーマの散漫さが悔やまれる。
昨年の『今日から俺は!!劇場版』が奮闘したように、煮え切らない日々が続く中で見るヤンキー映画は一服の清涼剤のごとし。腕力で白黒ハッキリする分かりやすさ。「架空OL日記」が象徴するように女性にあらぬ幻想を抱かず、しかし組織で生き抜くために派閥を作ってマウンティングしがちな人間の本質を突いたバカリズム脚本の鋭利さ。その脚本を得て、水を得た魚のようにイキイキと暴れる俳優陣の輝き。そして突き抜けたバカバカしさは、娯楽としての映画の楽しさを改めて味合わせてくれるに違いない。映画ファン的には『ベスト・キッド』や『リメインズ 美しき勇者たち』オマージュ?がツボ。
ヒット作の続編には賛否が付き物だが、本作は間違いなく賛の方。岡田准一のアクションがウリの本作で、前作はほぼ屋内で展開されてダイナミックさに欠け、おまけに早い動きに映像が対応しきれておらず不完全燃焼極まりなかったが、その両方を見事に改善。しかもアクションは規模が敵わないにも関わらずハリウッドの模倣をしがちだが、今回の団地や建物の隙間という日本特有の住環境を生かしたバトルはまさに日本オリジナル。本作と「るろうに剣心」シリーズが同時期に生まれたことに、日本のエンタメ映画の新たな夜明けをも感じさせてくれる。物語も、原作の黒い部分をギリギリまで取り込んでおり、特に平手友梨奈の俳優としての覚悟を感じた。
タイトルにハチの名はあるが、ほぼ旧ソ連時代に実在した忠犬の話。現地タイトルも「パルマ」で、上映時間も中身も日本と若干異なるらしい。実際、惹句にある”意外なきっかけで結ばれるハチとパルマの絆”を期待すると描き込みが足りなく、取って付けた感は否めない。ただパルマの演技と当時を再現した美術や衣装は素晴らしく、現地でヒットしたのも頷ける。とりわけファミリー映画を謳いながら、美談に隠された”大人の事情”もさらりと描いてしまうあたりは日本も見習いたいところ。そこには”旧ソ連時代の話”を装いながら、常に政治や時代に翻弄され続けている人たちの批判が込められているように思え、本筋以上の感動すら覚えるのだ。
時代が遡ることで、抗えない加齢とどう向き合うのか懸念していたが冒頭で邪念は吹き飛ばされた。佐藤健のアクションは俊敏さと凄味が増し、さらにまた新たなソードアクションの技を披露してくれるとは。そして物語は剣心の傷痕と不殺を誓った謎が明かされるが、そこに至る祇園祭のシーンが秀逸。巴が大義名分を掲げて殺戮を繰り返すことへの疑問の言葉を剣心に投げかけるのだが、それは武勇伝を持って語られることの多い歴史を捉え直す契機を与えてくれるだけでなく、戦が止まぬ現代社会へのメッセージも込められているのだろう。これを踏まえてシリーズを初めから見返してみたくなることを必至。類のない壮大なシリーズの完成だ。