略歴: 茨城県出身。スポーツ紙記者を経てフリーの映画ジャーナリストに。全国商工新聞、月刊スカパー!(ぴあ)、時事通信などに執筆中。
近況: 映画祭で国内外を飛び回っているうちに”乗り鉄”であることに気づき、全国商工新聞で「乗りテツおはるの全国漫遊記」を連載。旅ブログ(ちょこっと映画)もぼちぼち書いてます。
これが勢いにノる制作陣の手堅さと自信か。「アンナチュラル」「MIU404」と、事件に巻き込まれて人生を狂わされた人たちの情感を掬いとることに長けている脚本家・野木亜希子と原作の相性の良さは言わずもがな。強固な主演2人を据え、土井裕康監督らしいツウな俳優を適材適所に配したキャスティングにシビれる。その数たるや膨大だが、彼らが置かれた状況や人格が一目で分かるよう、衣装や美術など計算され尽くした細部に感嘆する。この物作りの真摯な姿勢は実在の事件をモデルにしていることへの配慮だけでなく、TBS系という報道機関が製作することの矜恃と反省も込められていのだろう。間違いなく今年を代表する傑作誕生だ。
カトゥーン・サルーンのケルト三部作の中で、最もメッセージ性の強い作品だ。時は中世。アイルランドにとって因縁の仲であるイングランドが入植し、植民地化した史実が背景にある。暴君と化したイングランドの護国卿はさらに、森林の開拓という大義名分を盾に脅威の対象であるオオカミを駆逐しようとする。異人種や思想の異なる人たちを敵とみなし、攻撃する人間の愚行を容赦なく見せるのだ。その中で育まれる少女とオオカミの力を持つウルフウォーカーの友情は、美しく尊い。愚かな歴史を繰り返し続ける我々に、製作陣が一筆一筆に込めた次世代の若者たちに託した思いに涙する。
本作は、原作モノ映画が主流の日本映画界にとって、非常に参考になるのではないだろうか。人気俳優こそ起用しているが、原作におもねることなく、ファンタジー的な要素も排除し、徹底的にリアルに。いや主人公キム・ジヨンの心が壊れていく様を生身の人間の身体を通して表現すれば、そうなるのが当たり前なのだ。この作品の重さは、まんま韓国社会がMeToo運動といかに真摯に向き合っているかを示す度量。女性たちだけでなく、しがらみだらけの人生で踏ん張って生きているあらゆる人たちにエールを送るかのような映画オリジナルのラストに、活躍めざましい韓国女性監督たちの勢いと頼しさを実感する。韓国映画界の力強さ、ここにあり。
新興宗教という一見、特異な世界を描いているように見えるが、テーマは前作『MOTHER マザー』と地続きのように見える。方や暴力、方や信仰で子供を支配する。家族という最もミニマルな共同体による宗教だ。家族円満のためにも”信じる者は救われる”のだが、一度疑念を抱いたら抜け出すのは厄介。特に強烈な世帯主のいる家庭ならどこでもあり得る話として、新興宗教をフラットな目線で描いている。誤解を恐れずにいえば、芸能一家で育った大森監督らしい視点と言えるだろう。そして子供の人格形成において、育ってきた環境がいかに重要かを考えさせられるのだ。
オムニバス映画は各監督が好き勝手作るので、1本の作品として見るとまとまりがなく残念な結果に終わることが常。だが本作は貴重な成功例だ。作風の異なる4監督を起用しつつ、描かれるのは公私に渡って停滞期にある”売れない女優マチ子”の日常。テーマは現代女性の生きづらさで、とりわけ芸能界にいまだはびこるパワハラ&セクハラの実態を赤裸々に描き、業界にパンチをかましているのは痛快。映画界における#MeToo運動に関して日本は完全に取り残された感じであったが、ようやく出てきたことを歓迎する。主演女優・松林うららの、蒲田をロケ地に選んだセンスといいプロデューサーとしての今後に期待。