ウルフウォーカー (2020):映画短評
ウルフウォーカー (2020)ライター4人の平均評価: 4.8
カートゥーン・サルーンの至高の工芸品
アイルランドの名工房から届いた「ケルト三部作」の完結編にして最高作だろう。『ブレンダンとケルズの秘密』、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』に続く理想的なホップ・ステップ・ジャンプ。手描きの作画と3Dソフトウェアを丁寧に融合させ、絵の世界に魅惑のアニマ(魂)が宿っている。
ケルト美術の様式を巧く使った自然界の描写が絶品。同文化の多神教や自然崇拝=アニミズムはそもそも「アニメーション的」とも言える。お話は『おおかみこどもの雨と雪』と比べたくなるが、風刺の質はむしろ『平成狸合戦ぽんぽこ』に近いか。コロナ禍でのロックダウンの最中に完成した作品とのことで「共生」の主題はより胸を打つものとなった。
幻想的な調べにのせて伝える骨太メッセージ
カトゥーン・サルーンのケルト三部作の中で、最もメッセージ性の強い作品だ。時は中世。アイルランドにとって因縁の仲であるイングランドが入植し、植民地化した史実が背景にある。暴君と化したイングランドの護国卿はさらに、森林の開拓という大義名分を盾に脅威の対象であるオオカミを駆逐しようとする。異人種や思想の異なる人たちを敵とみなし、攻撃する人間の愚行を容赦なく見せるのだ。その中で育まれる少女とオオカミの力を持つウルフウォーカーの友情は、美しく尊い。愚かな歴史を繰り返し続ける我々に、製作陣が一筆一筆に込めた次世代の若者たちに託した思いに涙する。
分断が進む時代に“共存”の美しさを教えてくれる素敵アニメ
アイルランド民話を基にした物語で、絵柄が優しく、色彩のセンスの良さが光る。特に水彩ペン画を思わせる背景のタッチに痺れた。『アナ雪』で注目されたオーロラによる歌もアイルランド気分を盛り上げてくれる。イギリス支配下のアイルランドを舞台に描かれる狼ハンターの娘ロビンとウルフウォーカー少女メーブの友情から見えてくるのは、信念に従って正しく生きることの大切さと“共存”の美しさ。世界各地で分断が進む今こそ、意見や宗教を異にする者同士も憎しみを捨てて共存を目指そうと思わせる映画が必要だ。すべての老若男女に見て欲しい傑作。
突然、"匂い"と"音"がまったく別のものに変わる
少女が狼になったとき、"匂い"と"音"が、それまでとはまったく別のものになる。そのときの映像が、アニメーションならではの気持ちよさと、なるほどこうに違いないと思わせる説得力を併せ持つ。狼となった少女2人が、一緒に夜の森の走るときの、どこまでも走って行ける気がする開放感が心地よい。
監督は、「ブレンダンとケルズの秘密」「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」のケルト紋様で描かれた世界の姿で魅了したトム・ムーア。今回も、魔術的な力が働くときに世界が抽象的な紋様と化す、"形の力"の魅力は健在。それに加えて、狼のような人間という題材を得て、"動き"と"速度"の魅力をたっぷり味合わせてくれる。