略歴: 茨城県出身。スポーツ紙記者を経てフリーの映画ジャーナリストに。全国商工新聞、月刊スカパー!(ぴあ)、時事通信などに執筆中。
近況: 映画祭で国内外を飛び回っているうちに”乗り鉄”であることに気づき、全国商工新聞で「乗りテツおはるの全国漫遊記」を連載。旅ブログ(ちょこっと映画)もぼちぼち書いてます。
企画のアイデアからして、颯爽と鯔背に映画界を闊歩してきた女優・原田美枝子らしい。表舞台で活動する自分を見守り続けてくれた母への思いを言葉ではなく、自らも晒す覚悟で作品にしてしまおうという発想が。家族総出の制作だが、そこはプロの集まり。身内映画に止まらないテーマが実に深い。母の生い立ちから、さらに祖母の人生まで掘り下げたことで、脈々と受け継がれてきた命の重さと、常に家族のために身を呈してきた近代日本の女性史という広がりが出た。その中身の濃さは24分の短編とは思えぬ程で、編集も手掛けた原田監督の手腕に脱帽。ここはひとつ長編版を期待。
韓国ノワールは若干お腹いっぱいだったのだが、マ・ドンソクは別腹。ゾンビも武器を持った凶悪犯も素手でなぎ倒す彼の得難い魅力は、ヤクザのボスというキャラクターを得てさらに開花。この危険人物を、よりによって連続殺人鬼が襲い掛かったことから、ヤクザと刑事が犯人逮捕に共闘する展開は、シュールなギャクを散りばめつつ社会の闇を見せた『アウトレイジ』を彷彿。己の正義を主要していても、皆、同じ穴のムジナという冷めた視点が人間の本質を突いている。濡れた車道にネオンが映える小雨のカーチェイスに、逃走シーンを劇的にする入り組んだ路地でのロケなど、映像の細部のこだわりも光る。監督は長編2作目とか。優秀。
『若おかみは小学生!』が仏で公開されると聞いた時は意外に思ったが、本作を生んだ国じゃないかと合点。ポネットはおっこより幼い4歳で母を事故で亡くす。まだ親指しゃぶりが止められない子に現実を受け止められるのか。それ以上に年端のいかない子供に、演技とは言え残酷な設定を与えるなと、一瞬、大人の罪が頭をよぎる。だが、違うのだ。これも仏流の、子供を子ども扱いせず、かつ彼らの可能性を信じたからこそ生まれた企画なのではないかと。実際、人生は薔薇色だけではない。だが苦難を乗り越えた先に必ず光は見えるはず。ポネットの人生を体感したヴィクトワールちゃんが見せるラストの表情とセリフが、雄弁にその事を物語っているのだ。
人間とは本当に愚かなもので、危機的状況に直面しないと賢人たちの有り難い言葉も耳に届かない(自戒を込めて)。だが自粛生活で食の重要性を知った今なら、”食材救出人”ことダーヴィド・グロス監督の活動は、食品ロス・世界トップクラスの汚名を持つ日本人を覚醒させるかも。しかも今回の日本の旅で紹介される事例は、野草料理研究家・若杉友子さんをはじめ精進料理や鰹節など日本の伝統食文化の掘り起こしであり、その文化の根底にある”もったいない”精神を現代社会に照らし合わせて実践している方々の新たな提案。明日をも知れぬ時代ではあるが、それも今の私たちの行動にかかっているのだということを改めて考えさせてくれる作品だ。
脚本は『聲の形』、『夜明け告げるルーのうた』をはじめ秀作アニメの影にはこの方有りの吉田玲子。やっぱり上手いのだ。1本の太いテーマに則って長い原作を巧みに咀嚼しつつ、映画的な時間軸の中でクライマックスに持っていくまでの構成が。映画版は、TV版ではあまり触れられなかった両親を事故で亡くした主人公おっこの心の再生にフォーカス。祖母の旅館に預けられ、おかみ修行に健気に励むおっこの姿に、東日本大震災時、不安な親を気遣って敢えて明るく振る舞っていたという子どもたちのエピソードが重なる。おっこにしか見えないユーレイの存在など心理学的にも興味深い表現が満載で、喪失の痛みを知る大人こそ心に突き刺さるに違いない。