略歴: 茨城県出身。スポーツ紙記者を経てフリーの映画ジャーナリストに。全国商工新聞、月刊スカパー!(ぴあ)、時事通信などに執筆中。
近況: 映画祭で国内外を飛び回っているうちに”乗り鉄”であることに気づき、全国商工新聞で「乗りテツおはるの全国漫遊記」を連載。旅ブログ(ちょこっと映画)もぼちぼち書いてます。
『カメ止め』同様、新鋭を発掘・育成するプロジェクトの作品。とはいえ監督が遅咲きの新人とあって、濡れ場こそなけれど懐かしきピンク映画の香りが漂う人情劇。牧歌的な場所で、ある理由でその土地に縛られたさえない男が、運命の女性との出会いで解放されていく。ロマンチックじゃありませんか。そこに唐突に入る笑いのセンスが素晴らしく、特に主人公・浩二が必死になるがあまりの無様な行動が、彼のキャラクターと人間そのものの愛らしさを表していて思わず笑っちゃう。中でも一人で刑事2人を押さえ込む秘技・蟹挟みは最高! 河童という飛び道具はあれど(一応、出る)、演出と脚本は実に手堅い佳作である。
熊切和嘉監督『鬼畜大宴会』が内容はもちろん山下敦弘、近藤龍人らのちの映画界を牽引する逸材たちがスタッフで参加していたことで伝説となったように、本作もお宝度高し。撮影・高木風太、録音・松野泉、記録・酒井麻衣はメジャーで活躍中。そして女優・土居志央梨だ。肝の太さは『リバーズ・エッジ』で実証済みだが、大学時代から只者じゃなかった。”シュッとした”土居の佇まいそのものに、目が不自由な華恵が乗り越えてきたであろう哀しみも強さも見えるかのよう。そんな土居と永瀬正敏が競演に加え、京都弁のセリフが言葉以上の想像を駆り立て、時に2人の心や目となるカメラワークにグッと心を掴まれる。実に豊潤な”二人ノ世界”である。
『この空の花火ー長岡花火物語』から始まった戦争三部作もパワフルだったが、それにも増してのカット数と情報量、そして戦争の悲惨さを後世に伝えねばならぬという切なる思いが溢れ出ていて、ただ、ただ圧倒される。しかも物語は幕末まで遡り日本人同士が斬り合っていた現実を突きつけ、さらに戦争の相手が他国となっても圧倒的な権力者が市民を無碍に殺戮し、女性を辱めていたという味方同士が傷つけあっていた史実を描く。劇中「映画は歴史を知る最先端のタイムマシン」というセリフがあるが、加害の歴史も学びなさいという大林監督の声が聞こえてくるかのよう。斬新な映像表現も含めて、これは大林監督からの映画版”最期の講義”である。
大島新監督は、映画『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』のプロデューサーでもある。本作の小川淳也議員とムヒカ元大統領は共通点が多い。共に愚直なまでの熱い志で政治家になったが、金と権力に興味がなく生活は質素。しかし方や大統領となり、方や衆院選で香川1区のトップ当選すら難しい。この差は何か。本作では上昇志向の希薄な小川議員の性格が指摘されているが、大島監督はしたたかに我々に問いかける。票を投じる国民の民度の差ではないか?と。確かに我々はあまりにも狡猾な政治家を見過ぎて、それが正解だと刷り込まれてきてしまった。その認識を改め政治家を見る目を養わないと手遅れになるゾという警鐘映画である。
ラジー賞で『キャッツ』と共に物議を醸し出した評判は真実。いやそれ以上かも。特筆すべきは「人命軽視と公共物破壊しまくり賞」の受賞で、ボコ・ハラムのような世界各地で起こっている女性蔑視の人身売買集団への怒りが作品の根底にあったとしても、やり過ぎ感は否めない。ただ確かに一昔前なら、多少の荒療治でもヒーローの勧善懲悪に拍手喝采を送り、溜飲を下げた人が多かったワケで、そういう意味では我々の暴力描写に対するメディア・リテラシーが向上してきたとも言えるし、製作側が時代の変貌を読みきれなかったとも言えるだろう。元々はベトナム戦争の傷を露わにした当時としては画期的な大作だった。そのテーマを貫いて欲しかった。