略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
最終章になるかどうかはわからないが、これで終わっても満足。ファンとして、そう言い切れるクオリティだ。
劇画調のアクション描写は従来どおりで、キアヌは今回も大熱演。そこに真田広之、ドニー・イェンというアジアの2大爆弾を落とし込む。前者の個性である武士道的ストイシズムがドラマを引き締め、後者は、それを継承しつつ、目の不自由な凄腕の暗殺者はこう動く……ということを体現する。それだけでお腹いっぱい。
クライマックス近くのパリ、サンクレール寺院前の222階段でのアクション。『蒲田行進曲』の階段落ちシーンに匹敵するアツさで、男泣きした!
ブラム・ストーカーの原作「ドラキュラ」に、ほんのちょっと記されているだけのエピソード。イマジネーションを広げ、それを描いた製作陣の想像力に、まず拍手。
当然怖い映画なのだが、製作陣は恐怖を喚起させる装置として『エイリアン』のノストロモ号内の殺りくをヒントにしたという。なるほど、宇宙船ならぬ輸送船で、ひとりまたひとりと消えていく不気味さ。それを支える、陰影とフラッシュライトが交錯した映像の作り込みも素晴らしい。
『ノスフェラトゥ』オマージュのドラキュラのビジュアルを含め、本気で怖がらせようとする心意気に感服。ホラー好きとしては、嬉しいかぎりだ。
埋めて祈れば死体が甦る、そこから発生する恐怖を描いた和製『ペット・セメタリー』。それだけでも面白いのだが、プロットは一歩踏み込んでヒネってくる。
霊だけでも怖いのに、その共犯者の意外な正体があぶり出される面白さ。ハリウッド製ホラーには、よくある展開だが、そこに黒髪の幽霊という和的要素を含めた邦画らしさが潔い。まさしく、中田秀夫の名人芸だ。
役者たちの“怯え”の演技も光っているが、『シャイニング』のヒロイン、シェリー・デュバルにケンカを売っているかのような、橋本環奈の大きな目玉をさらに見開いた仰天顔が、じつはいちばん怖い!?
事件の顛末をある程度知っていても、その緊張感に引き込まれるのは、被害者たちと加害者たち双方の、事件までの歩みを丁寧にたどっているからか。
震災という非常事態が人々の差別意識や恐怖をあぶり出し、それが集団意識となって惨劇に発展。その背後に警察・軍、政治の扇動があるのは戦争のシステムにも通じ、100年後の現代にも訴えるテーマあり。
森監督はこれまでの作品と同様に悲劇を強調せず、淡々と事実を組み立てて強烈なものを投げかけてくる。祭太鼓を思わせる飄々としたビート(鈴木慶一のイイ仕事!)をバックに描かれる虐殺場面も鮮烈で、悪夢に出そうな凄みが。今見るべき力作。
今年1月の鮎川誠の急逝にショックを受けた身としては、シーナ&ロケッツというバンドの本質が本作で語りつがれるのは嬉しいかぎり。
鮎川とシーナ夫妻の歩みをたどった物語から見えてくるのは、ロックのワイルドなイメージに縛られない生。シーナがしばしば口にする、生活とロックの一体化は鮎川の飾らない人柄はもちろん、家族の在りようにも表われ、娘たちとのふれあいの基盤にもなる。
ステージでのエネルギッシュなプレイも、孫娘と一緒に歌う歌も、同一線上で鳴っている、そんな自然さがいい。夢を追うことでかたち作られていった、素敵な家族の物語である。