福田村事件 (2023):映画短評
福田村事件 (2023)ライター2人の平均評価: 5
100年前のいたましさのなかに見えてくる現代の暗部
事件の顛末をある程度知っていても、その緊張感に引き込まれるのは、被害者たちと加害者たち双方の、事件までの歩みを丁寧にたどっているからか。
震災という非常事態が人々の差別意識や恐怖をあぶり出し、それが集団意識となって惨劇に発展。その背後に警察・軍、政治の扇動があるのは戦争のシステムにも通じ、100年後の現代にも訴えるテーマあり。
森監督はこれまでの作品と同様に悲劇を強調せず、淡々と事実を組み立てて強烈なものを投げかけてくる。祭太鼓を思わせる飄々としたビート(鈴木慶一のイイ仕事!)をバックに描かれる虐殺場面も鮮烈で、悪夢に出そうな凄みが。今見るべき力作。
人間の集団心理のおぞましさ、容赦ない演出で突きつけてくる
本作に興味ある人は、どんな展開になるのか心の準備ができていると思う。それでも容赦なく繰り出される該当シーンの映像から、作り手の強烈な使命感と覚悟で息が止まりそうな時間を強いられる。音楽も効果的にはたらき、観ているわれわれは「その場にいたら自分も同じ愚行を?」と人間の本能を突きつけられ、全身の震えが止まらない。
前半、複数の人間関係をじっくり描き、大正時代の生活、心情が真摯に伝わってくるが、そこに終盤へ向けた危うい火種が蒔かれていく。ジェンダーの役割や性愛も含め、100年前の事件を現在とリンクさせようとする設定も生きており、日本映画ではあまり出てこない「御真影」をしっかり映す姿勢に背筋が伸びる。