略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
メグレ警視といえばミステリー小説ファンにはおなじみのキャラだが、まず観客が目にするのはパイプをふかせない、人生の黄昏を迎えた姿。併せて、高級ドレスをぎこちなくまとおうとする若い女性の姿が。このオープニングに、引きこまれる。
ルコント作品らしく、ドラマ自体はミステリーよりも切ないまでの孤独にフォーカス。名前を知られぬまま惨死した女性と、真相追及のために彼女の気持ちを理解しようとするメグレ。若さの孤独と老いの孤独が交錯する。
ドパルデューの巨体をどこか寂しく見せ、一方で官能を匂わせる、そんな映像表現も味わい深い。ルコント監督の作品は久しぶりだが、90分で無駄なく収める職人的手腕はさすが。
“妖怪”とは“昭和の妖怪”の異名をとった岸信介元総理、その“孫”とはもちろん、こちらも元首相の安倍晋三。『パンケーキを毒見する』の内山監督が描くのは、世を去ってなお社会を覆う彼らの影だ。
メディアや省庁を骨抜きにして内閣に権力を集中させる巧妙な手口。匿名前提で出演した官僚の言葉はあまりに重い。『パンケーキ~』に比べてユーモアが薄れたのは、日本の救いのない現状の表われか。ラストの監督の独白には大いに考えさせられた。
高市早苗大臣の行政文書問題をはじめ、今まさに起きていることにも直結する内容。政治に煽られ、庶民の心にまで巣食ってしまった“妖怪”。これは正直、怖い。
自殺願望の強い頑固老人を演じるのが、トム・ハンクスという妙。『幸せなひとりぼっち』の精神を受け継いだリメイクだが、展開がわかっていても、それだけで魅了される。
オリジナルの脚本がよくできているだけに、それを忠実に再現したのは正解。主人公と移民一家の交流には温かいものが宿るし、ハンクスの“泣き”の演技も生きる。社会的弱者に目を向け、車社会を踏まえた設定は『グラン・トリノ』の陰も浮かび上がり、しっかりアメリカ映画仕様となった。
ハンクス以外のキャストもハマリ役で、主要キャラのすべてが記憶に残る。ネコの“好助演”も付け加えておこう。
男性ストリップという、いかがわしくも魅力的な世界を描き続けたシリーズも、これにて完結。それだけに前2作以上のエモさが宿る。
主人公マイクによる最初のエロチックなプライベートダンスからして感情を盛り立てられるだろう。それが後の展開にしっかり効いてくる。ヒロインの起業の動機としてはもちろん、その後の物語にも宿り、本作だけでも一本筋が通った。
振り返ると前2作ではマイクの恋は匂わせる程度だったが、今度はより直接的だ。パンデミックにも揉まれ、波乱に満ちた人生を歩むマイクを、生みの親ソダーバーグはどうにかしてやりたかったのでは? どんな結末かは伏せるが、そこにソダーバーグの優しさがにじむ。
スピルバーグには子どもを主要キャラに据えた作品が少なくないが、少年が子どものままでいられなくなる転換ポイントを見据えた現実的なドラマは『太陽の帝国』以来では。
自身の幼少期を素材にしているだけに、つくりがシリアスになるのは当然だが、それでもユーモアは生き、ヒューマニズムも脈づくのはスピルバーグの職人芸のなせる技。言うまでもなく、子役の自然体を引き出す演出も巧い。
成長のドラマの一方で、映画愛というテーマも魅力を放つ。スピルバーグが子どもの頃から映画作りの技巧にこだわってきたことが浮き彫りにされ、映画ファンには多角度から楽しめる。豊潤とはこういう映画のことを言うのだろう。