略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
ここ10年のパク・チャヌク作品を振り返ると、持ち味である暴力性の質が以前と変わってきたのは明白。バイオレンスはエロスへとシフトし、静かではあるが強烈な印象を残す。本作は、その静けさの到達点だ。
不審な事故死をめぐるミステリーはユーモアを宿しながらラブストーリーへと変質。しかし、この愛の危険性を匂わせることも忘れない。恋の駆け引きに、刑事と容疑者の駆け引きが絡み合う妙。
“愛は永遠の謎”とはよく言ったもので、事件の謎が解けてもそれは残る。高山から海へと事件の舞台を変えつつ、男女の心の軌跡を川の流れのようにたどった物語の切なさと言ったら。この“静けさ”は強烈ではあるが、美しい。
女性を主人公に据えたときのヴァーホーヴェン作品はとりわけそうだが、とにかく安易な感情移入を許さない。本作も、またしかり。
中世という女性が生きづらい封建社会で、信仰にも同性愛にもひた走るヒロイン。そこに嘘はないが、ついでに分別もないのだから、感情移入を求める観客は困ってしまうだろう。しかしヴァーホーヴェン作品の常で、生き延びることへの獰猛な意志が見えてくる。
もちろん一方には男権社会への痛烈な批判がある。容赦ないエログロ描写も、この世が生きづらいことの表われ。許されざる生き方であっても、それを描くことには意味がある。久しぶりに強烈なヴァーホーヴェン節。必見!
黄金期ハリウッドの栄華と退廃を見せる試み。チャゼルの視点に冷笑はなく、熱気の高まりを大らかな時代性とともに描いている。
酒池肉林のパーティも、映画製作の現場もどこか動物の世界的で、撮影中の事故で誰かが亡くなっても気に留める様子もなく、新たな夢や野心が動いていく。そんな野性的な空気が許されたのも、時代の大らかさゆえか。
野性的だからこそ栄光と失墜の落差は大きく、群像劇としてとらえると多種人間ドラマが浮き彫りになり、それぞれに感情を揺さぶられる。『ブギーナイツ』にも似た構造の妙。パンチのあるドラマだけに、ラストの感傷の引っ張り過ぎが少々もったいなかった。
インドネシアホラーの本気を伝えた『悪魔の奴隷』の続編。高層アパートが舞台ということもあり『ザ・レイド』を連想したが、こちらは戦場というよりお化け屋敷的。
原っぱにポツンと立つアパートの外観からして異様だし、ダストシュートや階段の舞台設定も巧い。夜の停電という設定下、マッチの火や稲光のフラッシュ効果が生き、チラ見えするオカルト現象にドキっとさせられる。
主人公一家の亡き母が歌う曲のレコードや、失踪した末っ子の存在など、前作を見ていないとわかりにくい部分はあるが、得体の知れない“何か”を見据えた演出は今回も見事で、怖がらせることへの本気度は十分に感じ取れるだろう。さらなる続編にも期待。
マルチバース化著しいMCUにあってアントマンも例外ではない。
このシリーズの場合、量子世界という独特の概念があり、さらに今回は時間を自在に操るヴィランが登場するので真剣に考えると頭が混乱しかねない。しかしそこはマーベル、異世界スペクタクルのつるべ打ちで押してくる。量子世界の異形のキャラは『スター・ウォーズ』のタトゥイーンの住人のようで目を引くし、とにかくビジュアル的な見どころに事欠かない。
“小さき者を無視するな”という主人公スコットの持論がドラマに一貫性をあたえている点もポイント。マルチバースになっても、彼の庶民性が失われていないのが嬉しい。