バビロン (2022):映画短評
バビロン (2022)ライター6人の平均評価: 4.2
ハリウッド黄金時代は獣のような映画人によって作られた!
黄金期ハリウッドの栄華と退廃を見せる試み。チャゼルの視点に冷笑はなく、熱気の高まりを大らかな時代性とともに描いている。
酒池肉林のパーティも、映画製作の現場もどこか動物の世界的で、撮影中の事故で誰かが亡くなっても気に留める様子もなく、新たな夢や野心が動いていく。そんな野性的な空気が許されたのも、時代の大らかさゆえか。
野性的だからこそ栄光と失墜の落差は大きく、群像劇としてとらえると多種人間ドラマが浮き彫りになり、それぞれに感情を揺さぶられる。『ブギーナイツ』にも似た構造の妙。パンチのあるドラマだけに、ラストの感傷の引っ張り過ぎが少々もったいなかった。
ハリウッドに人生を賭けた人々の栄枯盛衰
アメリカが空前の好景気に沸いた狂乱の’20年代。成長産業の映画界には金と人が集まり、巨万の富を手にした業界人たちは浮かれ騒ぎ、ハリウッドは「現代のバビロン」とも呼ばれた。しかし、やがてサイレントからトーキーへ変革の波が押し寄せ、世界大恐慌の足音が近づいてくる。そんな時代を背景に、デイミアン・チャゼル監督が世界の夢工場に人生を賭けた人々の成功と破滅を描く。ブラピはジョン・ギルバートね、マーゴット・ロビーはクララ・ボウかしら。元ネタが誰なのかなど想像を巡らせつつ、映画史の彼方に消え去った人々へ想いを馳せる。たとえ彼らの夢は潰えたとしても、その爪痕は映画のフィルムに永遠に刻まれているのだ。
映画好きにはマストな一作…が、好き/嫌いが激しく分かれるかも
オープニングの衝撃描写で、本作の“覚悟”がわかる。そこから30分のムードをすんなり受け入れられるかが、没入する分かれ目になりそう。1920年代、ハリウッドの狂喜乱舞&酒池肉林を監督のチャゼルが、妥協ナシに過剰に再現した印象。
一方で当時のアクション大作の撮影風景、スターの言動や佇まいなど、映画ファンにはネタの宝庫。最終的に映画100年の歴史、そもそもの映画の本質まで、冒険的演出も駆使し、他に例をみない体験を届ける。
ただ、やはりこの長さが必要だったか疑問。
しかし思えば『ラ・ラ・ランド』も賛否両論だった。個人の基準で評価の振れ幅が大きく変わるから、チャゼル作品には吸い寄せられるのだけど。
さらに、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
デイミアン・チャゼル監督が映画創成期を描くとはいえ、『グッドモーニング・バビロン!』なちょっといい話じゃなく、ケネス・アンガーが暴露った「ハリウッド・バビロン」の方! セレブたちのゴシップやスキャンダルなど、セックス・ドラッグ・ジャズな日々が目まぐるしく描かれる。軸となる監督志望の青年と新人女優の成功物語こそ、『ラ・ラ・ランド』ふたたびな趣だが、とにかく下世話で悪趣味。トビー・マグワイアの登場シーンに至っては、まるでタランティーノ作品を観てるようなヤバさだ。こんなご時世だけに、好き嫌いハッキリ分かれる一作だが、“今年の『エルヴィス』枠”ともいえるハンパない熱量と狂気に酔うべし!
過剰に熟した狂乱の渦
デイミアン・チャゼル監督が思いのたけを徹底的に詰め込んだ189分の超大作。冒頭の乱痴気騒ぎが映画そのものを体現していると言っていいでしょう。そのまま監督の過剰なまでの想いを浴びる映画です。
ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバが一応の主役ではあり、波乱万丈な時間を過ごしますが、本筋としては当時のエンタメ界に漂う空気の再現でしょう。時に監督の意地の悪さすら感じさせる描写は苦味と苦笑が入り混じり、最後はすさまじい映像の奔流に飲み込まれるような体験ができます。多少心身の準備は必要かもしれませんが、劇場で見てこそ意味のある映画と言えるでしょう。
サイレント映画終焉期のハリウッドが妖しい輝きを放つ
金管楽器のきらめく音色が、この映画のトーンを決定づける。サイレント映画終焉期のハリウッドが、映画ファンが思い描くような、黙示録の背徳の都バビロンのような世界だったとしたら。この映画は、そんな夢想と伝説の中で妖しい光を放つ世界を、華麗な映像でスクリーンに出現させる。
夜通しの狂騒、迸る情熱、腐臭を放つ頽廃。紙一重で底なしの暗黒と繋がっているからこそ、強い輝きを放つ魔都。その中を監督志望の青年、新進女優、かつてのスター男優らが動き回る。それを少し離れた視点から見る女性ゴシップ記者の台詞も、定番通りにカッコいい。数分しか画面に登場しない人物も人気俳優が演じる贅沢な配役も華やか。