略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
撮ろうと思えばハリウッド映画らしい痛快復讐アクションにもできたはず。そこはR・エガースの監督作、冷たい炎であぶり出すようにダークで強烈なバイオレンスを叩きつけてくる。
『ウィッチ』『ライトハウス』と同様の色味を感じさせない映像世界。シェイクスピアの「ハムレット」の基になった北欧伝説の寒々しい映画化に、このトーンはピッタリとハマる。
映像こそ淡色だが、復讐心に憑かれた主人公の虚無のあぶり出しは鮮やかで、見ていてグイグイ刺さってくる。エガースの過去作もそうだったが、人間が愚かな生き物であることを熟知している才人の仕事。『コナン・ザ・グレート』のダークサイドとも言えよう。
タイトルだけで想像できるが、人食いカブトガニの恐怖を描く、いわゆるZ級映画。その筋のファンを決して裏切らない。
クリーチャーのグロいビジュアル、圧倒的な血糊量、そして怪獣映画と化すクライマックス。そこからにじみ出るバカバカしさやブラックユーモアも完備で、唐突な展開も爆笑&失笑しながら楽しめてしまう。
上手いと思ったのは、明朗な青春ドラマを溶け込ませていること。社会的弱者である、体や心に問題を抱えた高校生たちの想定外の奮闘に、ほんのりロマンスも匂わせて共感を引き寄せる。不覚にも(?)何度かときめいてしまった。
記者たちの日常と使命感、被害者たちが語る痛ましい事実、そしてドキュメント風の語り口。『スポットライト 世紀のスクープ』を思い起こさせる、そんな硬派ドラマ。
ワインスタイン事件を扱うだけでスキャンダラスだが、本作はそれを必要以上に強調しない。被害者たちの心の痛みと、それに触れる記者たちの心理に的を絞る。そういう意味ではストイックなつくり。
もちろん、”♯metoo”的主張を声高に訴えたりもしない。あくまで社会の悪しき構造と、人間のドラマにこだわった点がいい。主演女優ふたりの自然体の演技も光り、共感をもって、またスリルを感じながら観ることができた。
映画音楽界の巨匠にして天才的な作曲家E・モリコーネは、どんな人生を歩んできたのか? 彼が生んだ映画の名曲に、どんな意匠がこめられていたのか? その軌跡を多角度から検証。
クラシックの作曲家を目指し、音楽院を卒業するも食べていくためにポップスの編曲を手がけ、映画音楽にも進出。これらの仕事を、芸術への冒涜と思っていたというモリコーネの人生に、ひとつのドラマが浮かび上がる。
某映画監督とのケンカをはじめとする裏話も面白いが、やはり歴代の名曲が最大の魅力。盟友トルナトーレ監督の視線の鋭さや演出の妙により、150分があっという間に過ぎた。映画ファンは、とにかく必見。
列車を舞台にした『新感染~』も強烈なパンデミック・エンタメだったが、同じ韓国製で旅客機内を舞台にした本作も負けていない。
狂気の化学者が殺人ウィルスを持ち込んだことから、機内も機外も大パニックに陥るスリル。不審者が空港にチェックインする冒頭の不穏を皮切りに、乗客が抱く恐怖、対策にあたる刑事や政府関係者の緊張がつぶさにとらえられる。誰もがネットでニュースを見られ、それが乗客らの一喜一憂につながる点も、ドラマを盛り上げるうえでうまく機能している。
スリルが持続するドラマではあるが、久々のタッグとなるソン・ガンホ&イ・ビョンホンのエモキャラも生きて、泣きの描写も映える。これは目が離せない!