モリコーネ 映画が恋した音楽家 (2022):映画短評
モリコーネ 映画が恋した音楽家 (2022)ライター5人の平均評価: 4.4
観ると幸福感でいっぱいになる
愛と尊敬を込めて、エンニオ・モリコーネの91年を振り返る監督は息子世代のトルナトーレ。キャリア前半の最高の相棒がマカロニウエスタンの様式を共に完成させたレオーネなら、後半は穏やかな化学反応を見せた彼。深い信頼関係に支えられ、カメラの前で数々の天才の秘密が明かされていく。
アカデミックな音楽の教育を受けながら、フリーランスの業界仕事人として活動した御大の秘話や葛藤は全てが興味深い。晩年のモリコーネのお姿はひとりの人間として「完成形」といった印象を受ける。長尺でもダレない端正な設計など、E・ライト監督の『スパークス・ブラザーズ』とも重なった。フィクションの監督が作るドキュメンタリーの良さがある。
プロデューサーとして参加した、ウォン・カーウァイ監督も登場!
『すばらしき映画音楽たち』に登場しなかった天才マエストロの半生を自身がベしゃり倒す157分! クラシックの道を志しながらポップスの編曲家として注目されるまではエンジンがかからない感もあるが、まさかの同級生だったセルジオ・レオーネ監督と『荒野の用心棒』を手掛けてからは、さまざまな作品を彩る名曲とともにフルスロットル。自ら「監督の色に合わせるカメレオン」と言いつつ、ときには監督以上に作品を理解してしまう稀代の天才ゆえ、キューブリックやゼフィレッリとの逸話まで飛び出す。クラシック界から完全にナメられていた映画音楽というジャンルを確立させた、その偉大さが手に取るように分かる一本である。
映画音楽ファンなら全員必見!
イタリア映画界が世界に誇る巨匠エンニオ・モリコーネの半生を、生前最後の本人インタビューを中心に紐解いていくドキュメンタリー。過去にモリコーネのインタビュー映像はいろいろと見てきたが、これはジュゼッペ・トルナトーレが聞き手だからなのだろうか、これほど深く詳細に自身のことを語ったものは他にないかもしれない。関係者インタビューにはファンを自認するブルース・スプリングスティーンやメタリカまで登場するが、個人的にはエッダ・デッロルソやアレッサンドロ・アレッサンドローニにもちゃんと話を聞いてくれたのが嬉しい。その一方、盟友ブルーノ・ニコライについては一切触れず。やはり何らかの確執があったのだろうか。
映画音楽を芸術に変えたマエストロの軌跡
映画音楽界の巨匠にして天才的な作曲家E・モリコーネは、どんな人生を歩んできたのか? 彼が生んだ映画の名曲に、どんな意匠がこめられていたのか? その軌跡を多角度から検証。
クラシックの作曲家を目指し、音楽院を卒業するも食べていくためにポップスの編曲を手がけ、映画音楽にも進出。これらの仕事を、芸術への冒涜と思っていたというモリコーネの人生に、ひとつのドラマが浮かび上がる。
某映画監督とのケンカをはじめとする裏話も面白いが、やはり歴代の名曲が最大の魅力。盟友トルナトーレ監督の視線の鋭さや演出の妙により、150分があっという間に過ぎた。映画ファンは、とにかく必見。
モリコーネにとっての音楽、それだけを描く
映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネを、映画音楽の裏話を中心にはせず、私生活もほとんど描かず、ある何かに没頭した一人の人間として描き出す。モリコーネが、その音楽を、その時に何を考えながら生み出したのかを彼自身が語る。彼がそれを語るとき、対象がかなり以前に作曲した音楽でも、その言葉は明解で揺るぎない。そしてその言葉に増して、彼が声と身振りを使ってそれを表現する姿が喜びに満ちていることが胸を打つ。
監督は、モリコーネと1989年の『ニュー・シネマ・パラダイス』以来、全監督作で組んできたジュゼッペ・トルナトーレ。長く一緒に仕事をしてきた人物だからこそ、この視点から描けたのではないだろうか。