略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
“競馬”を映画の題材にするのは難しく、カメラ位置次第では、競走馬は作り手が期待する“演技”をしてくれないこともあるという。そういう意味では、本作はじつによくできている。
迫力あふれる障害レースの模様を臨場感豊かにとらえている点が、まずイイ。『シービスケット』を思わせるアップや俯瞰など、競馬中継では見ることのできない角度からの映像に目を見張った。
何より、市井の人々の“夢”を気持ちよく描き切った点に好感。実話にドラマ性を見出し、痛快な着地点へと突き進む、そんな展開に引き込まれる。T・コレットをはじめとする“庶民顔”の俳優たちの、味のあるキャラも生きた。
『8 1/2』や『メキシコ万歳』『ホーリー・マウンテン』などの作品が脳裏をよぎる。ブニュエルも含めて、偉大な先人たちのシュールレアリズムを踏襲したかのようなイニャリトゥの新作。
制作に当たり、“理解したり、合理化したりする方法はなかった”とイニャリトゥは語るが、それも納得。映像作家である主人公と家族のドラマには収まらず、メキシコの戦争の歴史や荒野のイメージなど、映像は奔放に流れてゆく。
過去のイニャリトゥ作品のドラマ性を期待すると肩透かしを食らうが、絵的なパンチ力は相当なもの。まずは彼の言葉どおり、考えず、感じて見て欲しい。
まず、法廷ミステリーとして優れている。アイテムを活かし、伏線を回収しつつ、判決へと向かう面白さ。被告であるヒロインをグレイゾーンの存在のまま、共感を抱かせつつ描いた巧さも光る。
驚かされるのは、やはり結末だろう。ネタバレ回避のため詳細は省くが、ミステリーにオチをつけるのみならず、ドラマにしっかり筋を通すという点でも、みごとな着地。
自然と文明という、ふたつの世界。生きる世界が異なれば、生きるためのルールも異なる。“文明を作った人間エライ”ではなく、作らせたもらった自然をリスペクトしないと……などと考えた。ともかく、パンチ力のある傑作!
軽妙なミステリーを現代劇に落とし込んだ『ナイブス・アウト』はエンタメ映画として新鮮だったが、この続編はますます快調。主人公である名探偵ブノワの視点で描かれる、大胆なストーリー展開が目を引く。
遊びの殺人ゲームの謎解きを終えたと思いきや本物の殺人事件が起こり、そこから過去にさかのぼってブノワが本案件に関わった舞台裏を明かし、さらにヒネリを加えたつくり。トリッキーな映像や伏線も生きて見入ってしまう。
真実の追求と司法の追求が必ずしも一致しないことについても考えさせるオリジナル脚本。ここまでしっかりしたものを作ってしまうジョンソン監督の才腕に、改めて惚れた。
同監督の『ロックンロール・ハイスクール』に比べると弛緩した感が否めないのは、主人公の熱意がとらえきれず、話の方向性が不安定だからか。それでもこのユルいリズムには憎めないものがある。
主役はやはり音楽。一度ステージが始まれば、そのパフォーマンスは目を引く。R&B、ハードコアパンク、ロックなど多彩な音楽が鳴らされ、どれもけっこう本格的。演技派M・マクドウェルのロックスターのなりきりっぷりも楽しい。
硬派ロック詩人ルー・リードは出演を快諾した後、コメディだと思わなかったと激怒したというが、彼のラストの楽曲で映画が締まるのも事実。スパークスの未サブスク化の主題歌も含め、ロックファンは注目。