略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
吹雪の中の羊小屋に“何か”が迫るオープニングからしてタダならぬ気配。アイスランドの神秘的な自然の景色をバックに、異様なドラマが展開していく。
アイスランドに伝わるさまざまな神話からヒントを得て、そこに現代人を置いた物語。主人公は文明とは隔絶された地に住む牧羊農家の夫婦だが、クライマックスの直前、スポーツ観戦と泥酔という世俗に引き戻しつつ、悲劇へと突入する巧みな展開に唸った。
肝となるのは“喪失”で、それを埋めるべく行動に出るのは人として正常な行為である、と監督は語る。まずは見て欲しい。なんだかよくわからない。が、ヤバいものを見てしまった……という印象は確実に残るだろう。
『屋敷女』のモーリー&バスティロ監督が、またも屋敷を舞台にして恐怖談を放つ。ただし、今度の舞台は湖底に沈んだお屋敷だ。
刺激的な映像を撮るために水中に潜ったYouTuberカップル(このふたりのパワーバランスが面白い!)の無謀という現代的なテーマに、監督コンビの前作『呪術召喚/カンディシャ』にも似た幽霊騒動が融合。水中の息苦しさが増していくクライマックスまで目が離せない。
監督コンビの特色である絶望の突き詰めは本作でも生きており、安直なハッピーエンドに逃げない潔さ。エンドクレジット後のダメ押しに、ニヤリ。
N・モレッティらしくない非ユーモラスなつくり。一方で、彼らしい隙のない演出。それは息苦しくもあるが、同時に的確かつ冷徹に描かれた人間模様が深く突き刺さってくる。
家族・友人・隣人という関係性を見据えながら、そこに生じる誤解や悪意が、サスペンスフルに描かれる。関係性の“横軸”だけでなく、時の流れの“縦軸”の構築も見事いう他にない。心の傷は、時として無駄に長い時間を過ごさせるものだ。
“誰も無傷ではいられない”とは原作者ネヴォの弁。それでも人と触れ合わずにいられないのが人間だ。パンデミック以前に作られたとのことだが、人と触れ合いにくくなったそれ以後の世界にも確実に訴える。必見!
製作陣は“ライオン版『クジョー』を目指したとのことだが、それも納得。狂獣の出現以後は緊張の場面が、ひたすら続く。
主軸のサバイバルに親子の葛藤や、密猟問題を絡め、それ以外の無駄はいっさい省いたソリッドな作り。シンプルではあるが、アフリカの風景のとらえ方を含め、それゆえの力強さが大きな魅力となっている。
子育てに少々問題のある父親を演じつつ、娘たちを守るための死闘を体現したI・エルバの熱演は断然、光る。クライマックスのライオンとのガチ対決はCGI技術の凄さとともに目を見張った。
5人がヤクザの大金を奪うストーリーといい、鶴見辰吾の憎々しげなヤクザ役といい、石井隆監督の快作『GONIN』を連想。そして本作もまた、驚くべき快作だ。
奪う者は居場所を広げ、奪われる者は居場所を失う。油断も隙もない21世紀。必死のキャラたちの姿に、『GONIN』の90年代には開いてなかった格差の、“クルエル”な今が見えてくる。
西島秀俊ら中年俳優も味があるが、“怖い”という感情がわからない20代を体現した宮沢氷魚の空虚な存在感に魅せられる。これは石井作品の情念描写の現代的翻案か。若さの暴発、山梨という舞台は『死んでもいい』をも連想させる。