雪山の絆 (2023):映画短評
雪山の絆 (2023)ライター3人の平均評価: 4
衝撃的な描写が続くが監督の視線は優しい
「友のために命を捧げるほど偉大な愛はない」。これまで何度も映画化されたウルグアイ空軍機の墜落事故を映画化。アンデスの山中に墜落した乗客たちが、寒さと飢えと次々と襲いかかるアクシデントと戦いながら生き抜いていくさまを描く。乗客のラグビーチームの学生たちは、お互いに険悪になったり、争ったり、エゴに染まったり、できない理由を声高に叫んだりすることなく、状況に応じて自分たちにやれることを探し、励まし合い、時にはユーモアさえ忘れず、諦めず、果敢に行動する。衝撃的な映像もあれば、凄惨な描写もあるが、監督のJ・A・バヨナの視線は優しい。我々も大災害と隣り合わせに生きている。だからこそ、より胸にしみる作品だ。
衝撃の話をセンセーショナルにすることなく語る
J. A. ・バヨナが母国語であるスペイン語で映画を作るのは16年ぶり。飛行機が墜落する瞬間をはじめ、衝撃的なシーンが迫力とリアル感たっぷりに描かれるのは、さすが彼。だが、この映画で一番大切なのは、人々が持つ不屈の精神。生き延びるために人として許されない行為をした彼らの話はセンセーショナルに取り上げられがちだが、バヨナは、いくつもの絶望的な状況に直面し、希望を見つけては裏切られる彼らの姿を丁寧に描いていくことで「その話」になることを避けた。撮影監督ペドロ・ルケのカメラ使いも見事。観ているだけで寒くなるほど現地の過酷さ、恐ろしさをとらえつつ、同時に大自然の美しさと偉大さも感じさせる。
死が迫る時間を生々しく。知っていても結末は心が震える
同じ事故を描いた30年前のイーサン・ホーク主演作『生きてこそ』はハリウッド製作なので当然ながらセリフは英語。再現という意味で、さすがに今はこうしてスペイン語で描くのが必然と感じる。
飛行機墜落シーンはもちろん、キーポイントとなる凄惨な瞬間は徹底的リアルにアプローチ。何度も心の底から恐怖を感じた。雪山の広大さを収める遠景ショットと、閉塞感や迫る死を伝える人物のアップ。そのコントラスト効果は、じつに映画的。やや停滞するパートもあるが、そこも「時間の経過」を理解させるうえで的確か。音楽も適度にエモーショナル。
結末はあまりに有名だが、知っていてもラストは人として心が震える。その分、邦題がややモヤる。