略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
オリジナルの「ワイルド・スピード」をちょっと思わせる設定(そう、今や巨大なあのシリーズも最初はこんな感じだったのだ!)。だが、良い意味でもっと飾り気がなく、自然主義的で、ほとんどドキュメンタリーのような雰囲気がある。キヴォロン監督がインスタグラムで探してきたという新人女優のジュリー・ルドリューが主演を務めているおかげも大きいだろう。キヴォロンとルドリューが作り上げたこのヒロイン像は新鮮。男たちに囲まれていても、ロマンスの要素を出してこないのもいい。そして最後には、予想しなかった、感情的な結末が待ち受けている。今作で監督デビューを果たしたキヴォロンの今後の活躍が期待される。
社会の弱者に寄り添うダルデンヌ兄弟が、またもやすばらしい映画を作った。今作で描かれるのは、搾取されても抵抗できない難民の少女ロキタと、彼女が守ろうとするやはり難民の少年トリ。彼女らをひどく扱うのはヨーロッパ人だけではない。移住の手助けをした黒人カップルも執拗に金を取り立ててくるし、母国にいるロキタの母も、さらには社会のシステムも優しくない。そんな政治的なニュアンスも匂わせつつ、ダルデンヌ兄弟は、メロドラマにすることなく、シンプルかつ冷静に彼女らの日常を綴っていく。だからこそ、観る者は最後にいたたまれない気持ちになるのだ。強く胸を揺さぶられ、深く考えさせられる傑作映画。
「シャッター アイランド」を思わせる雰囲気はあっても、スコセッシとはほど遠い。産後うつ、育児ノイローゼというテーマに、家族にまつわる秘密がミックスされてくるのだが、あらゆるところで信憑性に欠けるのだ。検索すればあっさり新聞記事が出てくるような、地元の人全員が知っている出来事を今まで一度も聞いたことがなかったなど、あり得るのか?その発見がきっかけであそこまで狂気に陥るというのも納得がいかない。めちゃくちゃな状態にあるマットに勝手に赤ちゃんを任せ、恋人リヴが女友達と夜遊びを満喫するというのも理解に苦しむ。ビジュアルやサウンドで怖がらせようとするが、脚本の穴は埋められない。
ハビエル・バルデムにこんな側面があったとは!エキセントリックなショーマンを演じる彼がワニのライルと一緒に歌って踊る冒頭のミュージカルナンバーはとびきり楽しくて、一気に虜にされる。このバルデムを見るためだけでも、今作をチェックする価値あり!その後彼は消えてしまい、また戻っては来るのだが、もっと彼の音楽の見せ場が欲しかった。「ラ・ラ・ランド」「グレイテスト・ショーマン」のベンジ・パセックとジャスティン・ポールが書いたオリジナルソングは、ずっと耳に残るほどのインパクトはないものの、安定のクオリティ。ストーリーは予想のつく展開ながら、良い意図と優しさが感じられるファミリー向け娯楽作だ。
この悪名高き連続殺人事件は、男性キャスト中心の「絞殺魔」(1968)でも描かれた。それから50年以上を経た今作は、女性記者を主人公に据え、新聞社内部の女性差別や、女性がキャリアと家庭を両立することの難しさなど、社会的な要素にも触れているという意味でモダン。我が身を危険に晒しながらも取材をする女性記者をキーラ・ナイトレイとキャリー・クーンが演じるのだが、「不都合な理想の夫婦」でもすばらしかったクーンの見せ場が少ないのはやや残念。トーンやビジュアルには、デビッド・フィンチャーの「ゾディアック」の影響が感じられる。「スポットライト 世紀のスクープ」には及ばないものの、安定したジャーナリスト物だ。