略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
個人的に大好きな「M3GAN/ミーガン」のような、キッチュな傑作になれる潜在性はあったと思う。しかし、「M3GAN~」のようにコンパクトに絞るのでなく、話を引っ張る中であっちこっちに行くせいか、トーンがぶれてしまった感じ。誘拐もののように始まったのに途中から違うものになっていくあたりは良いが、後半、人が次々に恐ろしい形で死に始めると、見覚えのあるものに。それらのバイオレンスは強烈ながら、心理的な怖さはない。キャストは豪華な顔ぶれ。アビゲイルを演じるのは、2年前の「マチルダ・ザ・ミュージカル」で評価されたアリーシャ・ウィアー。まったく違うジャンルとキャラクターに体当たりした彼女に拍手。
二股をかけている上、どちらの相手にもひどいことをする欠陥だらけの主人公。心の問題を抱えていることは次第にわかっていくものの、誰もそこを解決してはくれない。同じような状態にありつつ何もできずにいる人は、本人であれ、その人を愛する家族や恋人であれ、世界中にたくさんいるはず。ストーリーはゆっくりと焦らず展開(タイトルが出てくるのも映画が45分ほど進んだ後!)し、主人公の日常をじっくり見せていく。ここで語られることは、国境を超えて起きている話。そのすべてのシーンにいる河合優実はすばらしい。今年公開された「あんのこと」もすごかったが、今回も演技もリアルでスクリーン上の魅力もたっぷりだ。これからも見たい!
1979年の「エイリアン」の後の話。かなりの時間静かなムードが続き、ようやく怖いものが出てきても最初のほうは見覚えのある感じ。だが、話が進むにつれどんどん緊迫感が増し、後半には想像もしなかった強烈なものが待ち構えている。思わず叫びたくなってしまう、絶対に映画館でするべき体験。このシリーズのレガシーへの敬意もたっぷり。逆に言えば、新しい方向に持っていくことはしていない。「プリシラ」「シビル・ウォー」など最近話題作が続いたケイリー・スピーニーは、この映画でもスターの魅力を発揮。難しいキャラクターをしっかり演じてみせたデビッド・ジョンソンも、今後注目していきたい俳優。
これまでにハリウッドで多数作られてきたやや過激めのハイスクールコメディの練り直しかと思って見始めたら、意外にもよく出来ていた。このジャンルにはお約束の下品なネタもたしかにあるが、そこに終始することはなく、それぞれにジレンマを抱えるメインの4人を愛着あふれる目で追っていくのだ。この4人はもちろんのこと、男の子が主人公の映画にしては、女の子のキャラクターもしっかり描かれているのにも感心。ラストも良い意味で裏切る。主演のメイソン・テムスは「ブラック・フォン」と全然違う側面を見せるし、化学の先生を演じるボビー・カナヴェイルの弾けっぷりもすばらしい。テンポも良く、素直に楽しい映画。
真のラブストーリー。「病める時も健やかなる時も」とは、まさにこういうこと。長年連れ添ってきた人に問題が出てきた時、彼女はあえて正式に結婚した。だが、毎日優しくケアしても、夫は、彼女が誰なのか、そして自分自身が誰なのかもわからないこともある。映画は、そんな日常を親密かつリアルに追いつつ、彼が健康だった頃の映像をも織り込んでいく。ジャーナリストとして活躍していた彼は、自国チリの歴史の暗い部分を忘れないようにしようと主張していた。記憶はアイデンティティにとって大事なのだと。その対比が、アルツハイマーという病気の残酷さと悲しさを、より強調する。国境を越えて共感できる、静かに心を揺さぶる作品。