ジョン・レノン 失われた週末 (2022):映画短評
ジョン・レノン 失われた週末 (2022)ライター3人の平均評価: 4.3
歴史修正に揉み消された(?)哀切な恋の物語
ジョンがヨーコと別居していた時期にスポットを当て、彼ら夫妻の個人秘書だったメイ・パンの視点でこの時期を検証。
一般的にはジョンの荒れていた時代とされているが、それだけではなくクリエイティブな産物、たとえばエルトン・ジョンやニルソンとの共作など、実り多き時代であったことがよくわかる。
何より、ジョンとメイの恋愛関係の行方は本作を牽引する大きな要素。我々観客はジョンとヨーコがこの時期を経てヨリを戻すことを知っている。ならばメイとの破局はどのように訪れたのか? これは若い女性の喪失感を見据えた哀切なラブストーリーでもある。
あの時代を生きたアジア系移民女性の記録としても興味深い
ジョン・レノンとオノ・ヨーコが別居していた18カ月間に何があったのか。ヨーコ公認の「恋人」として、ジョンと一緒に過ごした個人秘書メイ・パンの証言を中心に振り返るドキュメンタリーだ。芸能スキャンダルの裏側を垣間見る面白さも然ることながら、リベラル革命の時代を駆け抜けたアジア系移民女性の半生の記録としても実に興味深い。祖国の伝統に縛られた移民一世の父親に反発し、保守的な古き良きアメリカにも中指を立てたスラム街出身の中国系女性が、自由な空気と己の直感に突き動かされて音楽業界へ身を投じ、時代の最前線を目の当たりにしていく。その軽やかさと柔軟さ。ヨーコとは違う種類の強さをジョンは愛したのかもしれない。
ジョン・レノンに愛された女性の視点でその頃を語る
ビートルズに関するドキュメンタリーの中でも、これはユニーク。ジョン・レノンと一時期深い仲だった中国系の個人秘書メイ・パンの視点から、この恋の始まり、彼女が見たレノンとヨーコ・オノ、レノンとポール・マッカートニー、レノンと長男ジュリアン、またビートルズが正式に解散した時のことなどが、多数の写真、アーカイブ映像、アニメーションとともに語られていくのだ。そんな中では、家の中でレノンが見せたダークな側面にも触れられる。パンが涙ながらに語る真剣な恋の終わりは、とても切ない。一方でそこにはまだ腑に落ちない部分もあり、レノンから話を聞けない以上、本当のことがわかる日は来ないのだとも感じる。