略歴: 1963年神奈川県藤沢市生まれ。高校時代は映画研究部に所属。1997年よりフリーランスのライターとしてさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。得意ジャンルはアクション、ミュージカル。最も影響を受けているのはイギリス作品です。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。
近況: 今年1月には放送映画批評家協会賞(クリティックス・チョイス・アワード)の授賞式に出席。ゴジラを手にしていた山崎貴監督とも写真を撮っていい思い出に。ビリー・アイリッシュやトム・ホランド、マーゴット・ロビー、スピルバーグなど間近で遭遇する夢のような時間でした。
サイト: https://news.yahoo.co.jp/byline/saitohiroaki/
NYブルックリンの中でも高級住宅街を舞台にしたことで、おしゃれな大人のドラマという印象。作品に惚れ込み、プロデュースも手がけたアン・ハサウェイは、いかにもセレブ風な主人公を演じながら、他のキャストをサポートする立ち位置に徹し、嫌味がない。
生々しいのは夫の浮気のプロセス。もどかしいやりとりから一線を超える瞬間が、艶かしくも開放感バッチリで妙に共感に誘われるから不思議!
その夫が作曲を手がけるオペラが映画の中で2回登場するが、舞台装置や演出などかなり本格的で、ここは本作でも最大の見どころかも。
若いカップルの心情をもう少し掘り下げてほしかった気もするが、変に冗長にならずスッキリ観られるのも事実。
ふかふかカーペットに素足が沈む冒頭の映像からして、ソフィア・コッポラが「これは自分の映画」と宣言しているかのよう。高校生のプリシラがエルヴィスに愛された“事実”は、現代の感覚でかなり危ういが、そこもソフィアは様々なカワいいアイテム&美術でオブラートに包んで演出。観やすい作りになっている。セレブ生活を描くシーンは画面が生き生きするのも監督らしい。選曲センスは相変わらず抜群。
プリシラ役ケイリー・スピーニーの年代に合わせた変化は敢闘賞もの。終盤は急いだ展開なのに意思の強さが伝わった。エルヴィス役ジェイコブ・エルロディは歌のシーンはわずかながら、話し方や仕草、顔の造形までここまで本人に近いとは!
遠い宇宙空間で「ただ一人」の主人公という設定は『ソラリス』『月に囚われた男』からの既視感もありつつ、何度観てもその孤独に「自分だったら」と心が吸引される。本作では地球との交信、大企業のバックアップなどテクノロジーも主人公の運命を左右し、観ていて飽きることはない。
ある程度ストーリーが進むと衝撃の展開が待ち受けるのは予想どおり。しかし本作はビジュアル的インパクトが絶大。そして衝撃の後のエモーショナルな流れに加え、主人公の記憶や未来、内なる世界とのリンクはヴィルヌーヴの大傑作『メッセージ』を重ねたくなったりも。けっこう哲学的テーマを帯びてるようで、そのアプローチに作り手の迷いが伝わるのがやや残念。
監督が根っからのプロレスファンで、「過去のプロレス映画を超える」と意気込み、それに俳優陣も肉体改造と技の実践で応えただけあり、プロレスシーンの“本気”に驚いた。とくにザック・エフロンの筋肉の付き方は異常レベル。トップロープからのダイブなど実際に挑んだことで生々しいまでの豪快さが映像にやきつけられた。一家の得意技、アイアンクローの“痛さ”も存分に伝わる。
一家の運命を知らない人にとって、後半の悲劇はかなりの衝撃度のはず。その瞬間をあえて見せないことで、悲しみも増すという演出が効果的。家族間の愛と葛藤もドライに描くことに徹し、ベタつかないのが好印象。そこが物足りないと感じる人もいるかもしれないが。
連載開始から読んでいた立場で実写化にぴったりの題材だと認識していた。TVドラマで描かれた「きっかけ」部分の劇的エピソードと照らし合わせると、この映画版のパートはやや地味。原作にある、もうひとつの壮大な設定を描くのは(コンプライアンス的に?)確かにハードルが高いのはわかるが…。キャストでは原作時から実写なら絶対にこの人!と想像していたのが妻・歌仙の木村多江。だからこそ彼女が重要な位置となる「もうひとつ」が観てみたかった。
敵対するキャラのカリスマ性は、原作に比べてかなり不足気味、あるいは演技アプローチがあざとくて残念。
家族愛のストーリーとして向き合えば、素直に感動できる人は多いかもしれないが。