轟 夕起夫

轟 夕起夫

略歴: 文筆稼業。1963年東京都生まれ。「キネマ旬報」「月刊スカパー!」「DVD&動画配信でーた」「シネマスクエア」などで執筆中。近著(編著・執筆協力)に、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)、『寅さん語録』(ぴあ)、『冒険監督』(ぱる出版)など。

近況: またもやボチボチと。よろしくお願いいたします。

サイト: https://todorokiyukio.net

轟 夕起夫 さんの映画短評

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  • 禁じられた遊び
    「平成の貞子」ならぬ「令和の美雪」の誕生
    ★★★★

    そうか。かのルネ・クレマン監督の不朽の名作と同タイトルなのは「お墓のシーンが重要!」ってことなのか(原作由来)。恐怖ムービーにしてトンデモ系のはっちゃけた面白さを確信犯でやり通したエンタメホラー。ダブル主演、橋本環奈も重岡大毅も「求められたアクションとリアクション」をよく分かって表象している。

    人間の“嫉妬と憎悪”を背負った新ホラーアイコン、第三形態まである「美雪」と、それを肉体化したファーストサマーウィカ寄りに、いつの間にかなってしてしまう。「平成の貞子」ならぬ「令和の美雪」の誕生だ。中田秀夫監督にはJホラーのオリジネーターの意地と、それを更新してやろうという意志を感じた。

  • シン・ちむどんどん
    『仁義なき戦い』シリーズ的に言えば「沖縄死闘篇」だ!
    ★★★★★

    約半年スパンでまさかの第2弾登場! ラッパーのダースレイダーと時事芸人のプチ鹿島、野次馬風情の“選挙漫遊コンビ”が飛び込んだのは復帰50周年の沖縄。つまりは昨年9月の沖縄県知事選だ。巨大米軍基地のあるそこには日本の諸問題が煮詰まっている。

    今年、再取材で追加撮影された箇所に注目。野次馬が単なる“野次馬”ではいられなくなるのだ。同じく恐ろしいスピード感で連打された『仁義なき戦い』シリーズ的にサブタイトルを付けるなら、「沖縄死闘篇」だろうか。プチ鹿島の寸鉄人を刺す質問力に笑い、ダースレイダーの渾身のフリースタイルラップに涙し、そして、踏みにじられ続けている民主主義の“命”に思いを巡らす。

  • コンサート・フォー・ジョージ
    ジョージ・ハリスン生誕80年記念、必見のライブ!
    ★★★★★

    確認するまでもなくレジェンダリーなミュージシャン、ジョージ・ハリスンの功績は「ザ・ビートルズの一員だったこと」だけではない。その自明の事実は、ジョージが亡くなってからちょうど1年後、2002年の命日に開かれたこのトリビュートコンサートも証明している。

    盟友エリック・クラプトンや師匠ラヴィ・シャンカールを始め、ロック史、インド音楽史、さらには映画史やコメディ史(トム・ハンクスがサプライズ参加したモンティ・パイソン)に名を残す人々がその足跡を称えて参加。むろんリンゴ・スターにポール・マッカートニーも! ポールの歌う「フォー・ユー・ブルー」「サムシング」ほか、ジョージの楽曲に胸が熱くなる。

  • イノセンツ
    子供たちを巧みに動かした、この監督もサイキックの持ち主か!?
    ★★★★★

    始まったらもう、五感を開いて、食い入るように推移を見つめるほかない映画。あるいは、徹底して「静寂」であることが意識を終始張り詰めさせ、もしかするとそれは、いろんな音色音像が重なり混ざりあったがゆえの「サイレント状態」なのかもしれぬ――と思わせる、そんな多声的な「静寂」映画。

    ノルウェーの郊外の団地が舞台で、分かりやすくあの傑作漫画『童夢』にインスパイアされているとはいえ、こんな映像化はそうそう出来やしない。音響デザインも素晴らしく、エスキル・フォクト監督、やるね。シャイン(超能力)を持った子供たちの(まだ未分化な)論理と感性がサイキックパワーに変換されていき、エキサイトな時空間を構築する!

  • Pearl パール
    ミア・ゴス、君は天然色。けれども流れ出すのは虹の幻
    ★★★★★

    製作総指揮、脚本、主演ミア・ゴスの、傷だらけの“ハリウッドスマイル”の破壊力に胸打たれる。画竜点睛、ここで使われたアイリスアウトは、『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(23)のそれよりも効果的だった。

    総天然色の中の「アメリカの影」を描き出し、実在したハードコアポルノ『A Free Ride』(1915)をダイレクトに引用、タイ・ウェスト監督ならではの「映画についての映画」であり、批評性が高く、第一部『X エックス』(22)の単なる前日譚に収まらず、上書き度がエグい。

    当然、ヒロイン目線で全篇を眺めてしまうが、彼女の夫の立場、その胸中を想像すると絶句するしかない感慨へと達するだろう。

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