ゼロの未来 (2013):映画短評
ゼロの未来 (2013)ライター2人の平均評価: 3
IT時代についていけない年寄りの嘆きにも見える
主人公の仕事、彼が待ちわびる電話、彼のボスが探す人生の意義、とすべてが謎だらけ。途中で神様の目を思わせる俯瞰的な監視カメラ映像が入り、オーウェル風味?とも思ったけど、どうやら「人間は孤独では生きられない」と言いたい悲劇のようだ。でも仕掛けが大仰すぎて、本題が置いてきぼりになっている。謎の数式ゼロを解析する主人公の仕事はどう見てもTVゲームやってるとしか思えず、ギリアム監督はIT時代に遅れをとり、『未来世紀ブラジル』のあたりから未来感が進化してないのではとの疑問も浮かんだ。ティルダ・スウィントンやベン・ウィショーらが本当にチラリと登場するなどキャストは豪華だから、もったいない感がつのる。
世界の全部品にテリー・ギリアムの刻印が押されている
この世界を構成する部品のひとつひとつに、テリー・ギリアムの刻印が押されている。とくに、主人公が暮らす天井の高い大きな部屋。使われなくなった教会を改造して暮らすその住居は、あちこちに実験用具のような収集品のようなオブジェの数々が乱雑に置かれているのだが、そのひとつひとつがギリアムの形と色。その部屋の扉を開けると広がる極彩色の街の、動く広告、壁の落書き等々の部品も、すべてギリアム印。しかもデジタル製ではなく、実物をフィルムで撮影しているので、物としての力が強い。"人生の意味を教えてくれる電話を待つ男"を描くという物語作りの古風さに少々怯むが、この監督の、形と色によって世界を描く力は健在だ。