タイピスト! (2012):映画短評
タイピスト! (2012)ライター2人の平均評価: 4.5
クラシック映画愛溢れるチャーミングな佳作
女性の社会的地位がまだ低かった’50年代のフランスを舞台に、花形職業婦人であるタイピストになった純朴な田舎娘のサクセスストーリーを描く。ダグラス・サークやジャック・ドゥミ、ビリー・ワイルダーなどレジス・ロワンサル監督が影響を受けたという巨匠たちの名前を列挙しただけでも、その世界観はおおよそ想像がつくだろう。
ピリッと時代への辛口な風刺ユーモアを効かせつつ、ロマンティックで愛らしくてホロッとするようなストーリーに仕上がっている。テクニカラー・チックなパステル色満載のビジュアル、ヘプバーン映画を彷彿とさせるレトロでお洒落なファッションや小道具、それらを存分に生かした流麗なカメラワークなども実に楽しい。サンドラ・ディーやチューズディ・ウェルドなどの、’50年代アイドル女優を彷彿とさせる主演デボラ・フランソワのキュートで古風なルックスも素敵だ。
そうなるとは分かっていても、思わずウルッときてしまうクライマックスも含め、何度も見返したくなるチャーミングな小品佳作。女性はもちろん、広くクラシック映画ファンにもオススメだ。
おしゃれ女子映画としてはパーフェクト
ポスターをみて「観たい!」と思ったら、迷わず劇場へ。ビジュアルのイメージから抱く期待は決して裏切られることはなく、むしろ期待以上。'50年代のファッションに、音楽、美術の要素はすべてがキュートでポップでチャーミング! シネフィルだという監督は、ジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』やゴダール、ビリー・ワイルダー等々からインスピレーション受け、オマージュを捧げていると語っているが、筆者が最も強く感じたのはドゥミ作品の影響だ。作劇もまた'50年代の映画風。女性の本格的な社会進出はこれからという時代に秘書としてがんばるローズと、『マイ・フェア・レディ』よろしく彼女の才能を開花させる上司ルイとのロマンスは、不器用さ全開でかわいらしい。『ある子供』や『譜めくりの女』も印象的だった主演のデボラ・フランソワは意外性のあるキャストと思うも、美人すぎず洗練され過ぎずなところがよかった。個人的には人妻役のベレニス・ベジョの美貌に目が行ってしまったが。人物描写は表層的に感じられるだろうが、それもまた本作の世界観を貫くスタイルであり、形から入った器が重要な映画なので大した欠点でもないだろう。