ニシノユキヒコの恋と冒険 (2014):映画短評
ニシノユキヒコの恋と冒険 (2014)ライター2人の平均評価: 4.5
あけすけで現実的な女性たちの世界にも隕石は落ちてくる。
井口奈己の映画は極めて本流のセックス・コメディだ。ヤるヤらないの話でなく、この世は本質的に男と女の闘争であるという意味で。しかし本作の「核」となるニシノはどうも実体がはっきりしない。彼自身は空洞であって、タイプの異なる錚々たる女性たちの内に眠った欲望をさらけ出す「装置」のような存在に過ぎないのだ。そんな彼女たちのセックスを、ニシノと肉体関係のない稀有な女性・阿川佐和子が、まだ男女の機微など判らぬ15歳の中村ゆりかに語り伝える、という構成が風のような男の妖精っぽさを増強し、摑みどころのない不定形ぶりをより強調する。風貌といい声質といいセクシーなのにどこか頼りない竹野内豊がニシノそのもの!
竹野内豊の独身貴族っぷりがハマリすぎ
ネクタイをユルめたYシャツ姿でコーヒーを淹れる姿が、ここまでハマる俳優はそういない。まったくイヤミない独身貴族は、ドラマ「世紀末の詩」以来といえるほどの竹野内豊のハマリ役。しかも、“黒い数人の女”(+中村ゆりか)も鳥肌が立つほど魅力的で、「瑠璃の島」好きには感慨深いシーンもアリ。
とはいえ、井口奈己監督7年ぶりの新作。男女が醸し出す絶妙な空気感は恐ろしいまでに心地良く、過去作同様、それを楽しむ作品でもある。原作で描かれる主人公のエモな部分を一切排除したことによって、完全に井口作品に仕上がっていたことには驚いたが、“犬猫”の使い方にも驚いた!