ADVERTISEMENT
どなたでもご覧になれます

少女は自転車にのって (2012):映画短評

少女は自転車にのって (2012)

2013年12月14日公開 97分

少女は自転車にのって
(C) 2012, Razor Film Produktion GmbH, High Look Group, Rotana Studios All Rights Reserved.

ライター2人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 5

なかざわひでゆき

平凡な少女のささやかな願いに未来への希望が託される

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 法律の規制で映画館すら存在しないサウジアラビアで生まれた、同国初の女性監督による傑作。自立心の強い10歳の聡明な少女の日常を通じ、サウジアラビア女性の置かれた現状を浮き彫りにしつつ、未来へと希望をつないでいく。

 男の子達のように自転車に乗りたい。平凡な少女のささやかな願いは、しかし宗教の戒律によって女性の行動が著しく制限された国において、叶えられることは極めて難しい。本作は社会の因習に対する少女の素朴な疑問、彼女の目に映る母親の苦悩などを丹念に描きながら、同時に市民の間で起きつつある意識改革も敏感に捉えていく。障害に屈することなく前進する少女の逞しい姿に、幸多かれと願わずにはいられない。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

サウジアラビアから不意打ちのような傑作

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

「あの家の息子、爆弾を腰に巻いて自爆したんだって」「すっごく痛そう!」「神のためだから痛くないさ。天国で70人も妻を娶れるんだよ」――。

これが10歳の少年と少女の会話である。カジュアルな日常生活の中に、自爆テロの話題が普通に出てくる壮絶さ。映画文化に関しては全く未知だったサウジアラビアから、国内初の女性監督による勇気のかたまりのような画期作が登場した。

一見、物語構造は極めてシンプル。少女ワジダちゃんは友だちの男の子と遊ぶための自転車が欲しい。でも「女の子が自転車なんて!」と母親に反対される。イラン映画の『運動靴と赤い金魚』あたりを連想する設定だが、劇中に込められたイスラム社会背景の情報量が凄い。ワジダちゃんは民族衣装に身を包みつつ、足元はコンバースのスニーカー。ヘッドフォンで音楽を聴き、自宅では父親と一緒にテレビゲーム。西洋型の文明を部分的に享受しつつ、独特の因習や戒律に呪縛される混沌が常に画面の中で示される。

女性、子供の在り方は、特に保守的な社会において「未来」を規定する。本作の肝は新しい価値観がせり上がってくる時の緊張感だろう。日本でも多くの観客に届いて欲しい一本だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT