百日紅~Miss HOKUSAI~:映画短評
百日紅~Miss HOKUSAI~ライター2人の平均評価: 4.5
べら棒な天才絵師たちの淡々とした日常・非日常。
原恵一作品に垣間見える過去の時代への憧憬…というか、なくなってしまったモノへの執着の一端は杉浦日向子にあったのか。連作短編である原作の妙味とヴィジュアル表現を踏襲しながらも、春夏秋冬の移り変わりに沿って再構成。さらに初版ラストに置かれた北斎の盲目の娘・お猶のエピソードを大きく膨らませ背骨とすることで、きりっと統一感を持たせている。センチメンタリズムを徹底排除、ハードボイルドなまでの語り口は北斎&お栄の超然たる生き方にも似て、90分の身丈に合った粋があるが、それでもあまりに繊細な仕草・動きの演出に感嘆。ことに名アニメーター井上俊之の神髄ともいえる、茶屋前の童子ふたりのシーンは凄味さえある。
原作ファンなら文句なし!
お江戸の天才&破天荒キャラ・お栄が登場するオープニングに、エッジの効いたロックが流れる。『はじまりのみち』に続いて原監督と組んだ富貴晴美による劇伴は、その後もボーダレス感を醸し出しながら、観る者を江戸の町にダイヴさせてくれる。短編エピソードが繋がった原作の忠実度はハンパなく、ファンならぐうの音も出ないほど。一方、父・北斎の愛人のエピソードなどが削られていることもあり、じつに心地よく、90分という尺のモノ足りなさや、わんこ映画という点でも魅力的だ。風習や文化が説明不足なところはあるとは思うが、日本の四季を感じられる構成と鮮やかな色彩ゆえ、海外でも『かぐや姫の物語』より評価されてほしいところ。