屍者の帝国 (2015):映画短評
屍者の帝国 (2015)ライター2人の平均評価: 3.5
斬新な世界観で展開するスパイ・アクション
フランケンシュタイン(屍者)の技術が世界に拡散した19世紀末――。伊藤計劃が遺したこのプロローグから始まる本作は、SFやゴシックホラー、ホームズ好きだけでなく、映画マニアにも響く世界観だ。さらに、美少年の屍者を相棒に、主人公・ワトソンが失踪した男を捜すためアフガンに向かう『地獄の黙示録』から、『007』ばりに日本・アメリカを巡ったと思えば、クライマックスは『フランケンシュタイン/禁断の時空』に近い!? 難解すぎるといわれた原作だが、「進撃の巨人」のアニメスタジオと、ヒト型ロボットとの生活を描いた『ハル』の監督が手腕を発揮し、エンドロール後のおまけまで、詰めに詰め込んだ120分となっている。
伊藤計劃を語り継ぐという試み
伊藤計劃の小説の映画化作が3作連続公開されるときに、なぜ最初に公開されるのが、彼が書いた小説ではなく、彼が試し書きと企画用プロットのみ遺して没し、他の作家が完成させた小説の映画化作なのか。それは、本作の原作小説を完成させること自体が、伊藤計劃への追悼であり、彼の物語を語り継ぐことの実践であり、今回の3作の映画化もまた、同じことを目指しているからだろう。
原作小説は、円城塔が執筆することで言葉についての物語になったが、映画は原作とは別の、こうだったのかもしれないもうひとつの活劇版「屍者の帝国」になっている。が、原作中の「あなたの残した物語」についての言葉はそのまま出現し、強く胸を打つ。