イマジン (2012):映画短評
イマジン (2012)ライター3人の平均評価: 4.7
難解な作品にあらず。これは真の“ヒーロー映画”だ
本作の主人公は、かの座頭市と並ぶ異能のヒーローである。見聞をもとに子母澤寛が書いた掌編を膨らませ、勝新太郎の“市”が生まれたようにこの映画にもモデル、ベン・アンダーウッドがいる。自分の発した舌打ちの反響音で人や物の位置、形を判別し、白杖に頼らぬ行動を可能にした盲人だ。
構成もヒーロー映画的であり、さすらい人として登場し、“市”の居合い抜きもかくやのワザを披露、数々の障壁と格闘することに。リスボンの街並み、いや、世界を音を通してフェティッシュに切り取り、カメラが超俯瞰になってからは神展開! ラストは『アラビアのロレンス』の名高いドリーミーな奇観を彷彿とさせ、口から感嘆符が飛び出した。
「見えるもの」を揺さぶる傑作――もっと自由に、感覚を解放せよ
これは凄い! 幻視というナチュラルなエフェクターにより、リスボンの街が別の風景へと変換される感覚というべきか。盲目の恋人たちを主人公としつつ、俗流の「感動作」とは遠くかけ離れている。
視覚障碍診療所の教師イアンは、施設内の立場は違うものの“自由への扇動者”という点で『カッコーの巣の上で』のマクマーフィー(J・ニコルソン)と印象が重なる。そして我々観客も彼の導きによって、通常の「見えるもの」とは次元の異なる不思議な世界へ誘われるのだ。
ヤキモフスキ監督による極めて繊細かつ大胆な“音×映像”の立体的な設計に驚嘆。視覚、聴覚、想像力。本作が映画と人間、両方の本質にタッチしているのは間違いない。
想像力を働かせれば見えないものも見えてくる
反響定位という特殊な技術を使い、杖や盲導犬に頼らず街を歩くことができる視覚障害者の男性が、新しく赴任した診療所で様々な波紋を広げていく。
木々のざわめきから雑踏の靴音まで、日常生活のあらゆる音を巧みに配置する一方、カメラは主人公たちの周囲を極力見せないようにすることで、観客にも視覚障害者と同じように世界を“想像”させる。
そう、音は聞こえても目の見えない彼らは、その足りない部分を想像力で補う。そして、その想像力で色付けされた世界は、時として健常者が見落としがちなものをも映し出す。世の中の様々な苦難や対立、誤解も、想像力を働かせれば解決できるかもしれない。それこそが本作の核心だろう。