フレンチアルプスで起きたこと (2014):映画短評
フレンチアルプスで起きたこと (2014)ライター2人の平均評価: 4
この監督の前作『プレイ』も超傑作なんだよ。
のんびり始まった家族のヴァカンスが、あるできごとで崩壊する。まさに瞬時に、決定的で修復不可能な事件として起こってしまうのだが、人間の認識はあまりに突然の衝撃についていけない。とりわけ真綿で首をじりじり絞めつけられるように、しでかしてしまった行為をみっともなく自己否定しようと努め、ありもしない理由で消し去ろうとはするものの、次第に事件とは直接的には無関係なボロまで漏れはじめる夫の醜態は悲惨の極み。男性既婚者ならヘラヘラ笑って観続けるのは無理なブラック・コメディだが、男と女の心理戦を皮相に描くだけでなく、明確に大画面指向でスペクタキュラーなシーンが二カ所もあるのがなんとも映画的なのだな。
夫婦とは何か? 結婚前のカップル必見
東北大震災のときに話題になった「てんでんこ」。津波が来たら、家族にもかまわずにとにかく逃げる(=自分の命は自分で守る)という意味の防災教訓だ。雪崩に巻き込まれると思って保身に走った挙げ句に妻から白い目で見られる夫、そして夫の行為を黙認した挙げ句に鬱状態になる妻にもこの言葉を捧げたいと思った。命が危ないと思ったら逃げるのは人間の本能だし、恥辱などをすり替え記憶にしちゃうのもまた本能。夫婦関係というものは信頼あってこそだろうけど、伴侶に自己犠牲を押し付けるのはいかがなものか? 極限もどきの出来事で揺らぐ夫婦関係を見ながら、結婚前のカップル必見と意地悪く思ったね。理想に縛られ過ぎは良くないよ。