独裁者と小さな孫 (2014):映画短評
独裁者と小さな孫 (2014)ライター2人の平均評価: 5
憎しみを断ち切れない世界へ熟考を問いかける瑞々しい寓話
架空の国を舞台にしながらも、独裁国家ならいつどこでも起こりうる寓話。お伽噺のような味わいは、決して為政者や民衆の愚かしさを強調するためではない。監督が目の当たりにしてきた生々しい現実を普遍化し、エンターテインメント化して伝えようとする意思の表われだ。それでも苛烈な描写は避けられず、無秩序が剥き出しになる瞬間が訪れるゆえ、映画としての背骨とメッセージは強くなる。
権力を失い、無垢な孫を連れた独裁者の逃避行は、自らの圧政が招いたむごい結果を目撃する旅になるが、諸悪の根源である彼の処遇こそが真のテーマ。暴力に苦しんだ者たちに、民主化のために為すべきことを問いかける終盤は圧巻だ。
独裁政権の崩壊=民主化とならない理由を考察する
独裁政権崩壊で追われる身となった元大統領が、幼い孫を守り決死の逃避行を続けながら、搾取され続けた国民の悲惨な生活を目の当たりにする。
言うなれば元独裁者の贖罪を描く作品だが、しかしそこは本作の焦点ではない。アラブの春のその後を見ても分かる通り、独裁政権が崩壊した先にはさらなる暴力と混乱が待ち受ける。それはなぜなのか、どうすれば民主化を実現できるのかを考察した作品だと言えよう。
と同時に、独裁者もまた我々と同じ血の通った人間であることを描く。まさに罪を憎んで人を憎まず。ある種の寓話性を帯びた美しい映像や迫力のある群衆パニックも見どころで、エンターテインメント映画としても完成度が高い。