緑はよみがえる (2014):映画短評
緑はよみがえる (2014)
ライター2人の平均評価: 4
雪原の『野火』
イタリアの巨匠が静かな怒りで戦争の愚かさを描いた。アルプスの麓にあるアジアーゴ高原。月夜に照らされた雪原は美しい。そこで犬死する兵士たち。その対比は塚本晋也監督『野火』を想起させる。ただこちらはウサギを捕獲するような餓死寸前状態ではないようだ。死亡者に祈祷する場面もある。人道的なシーンを入れたのがオルミ監督の優しさなのかもしれないが。
戦場における神の不在を匂わせているのも共通している。熱心なキリスト教徒だというオルミ監督が「祈っても、どうせ神は現れない」と兵士に放たせたのは、実に重い。現在84歳の覚悟と魂が込められたセリフ1つ1つを反芻せずにはいられない。
たった一晩のドラマに集約された戦争という怪物の本質
第一次世界大戦下のイタリア。雪に閉ざされたアルプス山中を舞台に、塹壕に立てこもった兵士たちの苦悩・不安・恐怖・悲しみが交錯する。
美しくも厳かな大自然と、狭くて暗い殺伐とした塹壕内部。静寂に包まれた束の間の平和と、砲弾の雨が降り注ぐ凄惨な地獄絵図。80歳を超えたイタリア映画界の巨匠エルマンノ・オルミは、静と動、美と醜、希望と絶望を巧みに対比しながら、たった一晩のドラマに戦争という怪物の本質をじっくりと焙りだす。
ひと握りの権力者が己の利益のために争いを起こし、嘘によって大衆の愛国心や正義感を煽り、結果的に多くの若者の尊い命が犠牲となる。時代は変われども戦争のメカニズムは今も変わらない。